ブラジル・リオでのパラリンピックが終わり、少し熱がさめた後も、サッカーアジア予選、プロ野球日本シリーズ、大相撲などスポーツの話題は尽きません。
それぞれの実況放送を聴いていると、ラジオもテレビも、解説者本人の熱量がすごく「行け、そこだ、その調子、ダメだ! ダメだ!」と、解説者なのか観客・応援団なのか、区別できない放送が最近増えてきたように感じます。特に解説者本人が最近まで競技者として活躍していた場合に多く、どうやら解説以前に競技者になってしまっているように思われます。視覚障害者の私は、テレビよりラジオを聴くことが多いのですが、競技の様子が分からないまま「行け、そこだ、今だ、今だ」と連呼されても、試合の進行状況を想像するのは容易ではありません。
一方、マラソンはラジオ放送を楽しく聴くことができる競技の1つです。ゴールまで長時間にわたって競う競技なので、時間に余裕があり、解説者が競技者と一緒になって興奮してもあまり気にならないからです。特に嬉しいのは、マラソンコースの風景を解説してくれることです。テレビでは視聴者も同じ画面を視ているので細かい説明は必要ありませんが、ラジオでは、風景だけでなく、コース沿いにある大小様々な建物の解説が入ることで、場所によっては私の記憶が甦ることもあります。かつて見知った場所の景色を想像しながら、コースを実感して競技を楽しむことができるのはマラソン放送の良さです。
先日、あるベテランキャスターが「テレビはカメラを向けられている景色について説明する必要がない。視ている人がカメラを通して確認できるので相づちもいらない。一方、ラジオだと解説者には見えても、聴いている人には見えないので、それを怠ると放送に空間ができてしまう。あまり空間が長いと、放送事故に思われることもある。見えているテレビと、見えていないラジオとでは、そこには大きな違いがある」とラジオ放送の難しさを語っていました。音に頼っている私にはよく理解できる話でした。
もしもこれを読まれたあなたが解説者になったなら、自分中心の解説をせず、色々な人が見たり、聴いたりしていることを忘れずに、一緒に楽しめる解説をお願いします。
また、ガイドヘルパーとしての仕事中は、介護者が見えているものは、視覚障害者には見えていません。変化する季節風景の解説や相づちはぜひとも声を出してお願いします。ただ頭を振って返答すること、「あれ、これ」といった指示語での説明は絶対禁止です。この解説者テクニックは「同行援護(ガイドヘルパー)」における視覚障害者介護にきっと役立つと思います。