先日、OB会に出席するために都心へ出かけました。混雑する時間帯を避けてではありますが、久しぶりに現役時代の出勤気分を味わうことができました。当時は混み合っていても静かな車内で、目を閉じて居眠りする人や新聞・雑誌を読む人が多くいたと記憶します。ですが今回、私の両サイドの人は起きていて、居眠りする人が少ないにもかかわらず、車内が静かなことに驚きました。ラッシュではないにしても、釣り革を持つほどの混雑ぶり。ところが声はどこからもしません。何故でしょう。皆さんひたすら携帯端末に向かい、ガチャガチャと無言で指を動かしているからです。噂では聞いていましたが、これ程ひどいとは予想していませんでした。今の時代、社内でも隣にいる人にメールをしてから昼食に出かけると聞いたことがありますが、この電車内の様子を見ればありえることだと実感しました。健康保険組合では、疾病に「心の病」躁うつ病が多くあると報告されています。こうした携帯メールでの情報交換や意思のやり取りが日常化し、声を発する機会も減り、お互い心を尽くしての会話を交わさなくなったことも原因の1つではないかと私は考えます。
皆さんは介護でご利用者さんの自宅を訪問するのがお仕事ですから、ご利用者さんから話かけられることも多いと思います。でも、毎回同じ内容の話を繰りかえされれば、「仕事が忙しいから」と片手間に聞いているふりをして終らせてしまうこともあるのではないでしょうか?ご利用者さんは、誰かに話を聞いてもらうことで、今ある苦しみや悲しみ、そして現状の困難からも救われ、気持ちが軽くなり、考えが整い、生きる力がわき、安心できるのです。忙しいなかでも、真摯に耳を傾けることで相手の苦しみを軽くすることができますし、ご利用者さんからの「助かりました」の言葉は、立派に援助したことの証でもあります。
孤独に陥る原因の1つに、相手に自分を解ってもらえないということがあります。何を、なぜ、どのようにたずねるのかを聞き手も分っていないと話の核心が消えてしまいます。ご利用者さんが話す家族のことや今の不平不満を真剣に聞いて「こうなのですネ…」と合槌を入れることも、大切です。「この人は解ってくれる」と実感でき、さらには「自分は一人ではない」と新しい力が湧く原動力にもなるのですから。このように、話を聞き、理解したことを言葉で繰り返すことで、相手は命が救われ、元気を取り戻すことができることをご存知でしたか?
病気は医療関係の人が治しますが、心の病は聞き上手な人が治せるのだと思います。 「魂のケア」として、訪問して話を聞くことで、また「どうかしましたか?」と声をかけることで、自然と信頼されていく…。何もしなくても次第に話を聞かせてくれるようになります。聞き上手になることで、病を治すと同時に相手への援助にもなるのです。特にうつ、孤立、孤独、老人性認知症は、話を聞くことが最大の援助となり、もしかしたら病も救えるかもしれません。医療手段を持たない人でも、訓練すれば上手に話を聞くことはできますし、結果、ご利用者さんによい援助を与えることにもつながります。
人生過去の事実は訂正できなくても、事実の縦糸横糸を織り変えることは多少なりともできるはず。障害者として共感する点が多々あります。私も聞くという生きた方に徹していきたい。
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