定年になった時に一番したかったことは「四国お遍路」でした。第9回コラムでも述べたように、歩くことが昔から得意で、時間と暇が出来たら「四国お遍路」を体験したいと思っていました。特に信仰があるわけではありませんが、ただひたすらに歩くことだけを毎日繰り返したかったのです。お遍路案内書を見ると、第1札所から88札所までの歩き日数は、約50日から60日。徳島、高知、愛媛、香川の四国4県を県単位に分けて歩くこともすすめられていましたが、私は一度歩き始めたら結願するまでは、何日かかろうと帰らないつもりでした。というのも、総歩キロ数・約1400キロの道のりは、途中で歩きを止めてしまうと次回出かけるのに、障害を持った私には、体力と実行力に自信が持てなくなる気がしたからです。これまで鍛えた健脚は、毎年開催される「歩け歩け大会」の1日50キロコースに参加して、3日間で150キロを歩くという実績になり、今、私に自信を与えてくれています。
当時、お遍路を2002年4月1日にスタートすることを目標にして体力作りに取りかかりました。遍路、参拝予定日、宿泊予約、1日の歩行キロ数などの予定表を作成したことが懐かしく思い出されます。いざ出かけてみると、各札所は障害者に優しく、全国から訪れる年間数千人(全て徒歩で歩く人)のお遍路さんをお迎えしているだけあって四国の皆様がお遍路巡行に携わっているようで、頂いたうるおい(恩恵)は惜しげなく「お接待」と言うかたちで、お遍路さんに労いの声をかけてお返ししてくれます。また、車椅子の方でも迂回すると本堂前に車を横付け出来たり、階段に手すりが設置されていたり、視覚障害者の誘導がしやすくなっていたり…と随所に工夫がみられ、参拝する人達を心から歓迎していることが良くわかりました。
最近、私は久しぶりに家内と1日バス旅行に参加しました。目的は長野の「善光寺参り」。途中での「道の駅」では、お土産売り場も買い物しやすいように改修がなされ、特にどの店も障害者向け専用トイレが設置されていることには驚きました。さて、私にとって初めての善光寺参拝ですが、まずバスを駐車場で降りた後、本堂に向かうまでの道のりが障害者にとって厳しいものだと分かりました。視覚障害者用点字ブロックも見当たらず、歩道には段差があるなど道が整備されていないため、車椅子の介護者にとっては苦労が堪えないものに。本堂近くまでのバスの乗り入れは混雑を避ける為に禁止されているので、数箇所用意された駐車場から本堂までの距離は想像以上にあります。駐車場から何処までも続く本堂までの白壁を見ながら歩き、やっとの思いで本堂前に到着しました。門構えは、四国札所を経験したお寺さんとは比較できないほど立派な善光寺さん。
現在本堂は、何十年ぶりかのありがたいご開帳で、連日参拝者が多く訪れ、周囲の町全体がお寺の恩恵を受けて商売している「善光寺さまさま」だと、バスガイドさんから説明もありました。
善光寺は長野市観光の目玉であるにもかかわらず、なぜ障害のある参拝者に優しい町作りをしていないのでしょうか。当時は話題の県知事であった田中康夫さんが苦言を呈していないのが不思議に思われました。
逆に本堂までの白壁はお寺さん関係の建物なのでしょう。最近手直ししたのか、石垣、壁、門と全て新しいのです。参拝者からのお寺さんへの御布施や町商売で生まれた恩恵が「お接待」として参拝しやすい町作りに活かされていないことが、四国お遍路の旅と比較して感じたバス旅行でした。
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