散歩する通り沿いに中学校があります。いつも散歩途中、登校中の生徒さん達とすれ違うのですが、数年前のその日は、偶然いつもより少し遅れて家を出ました。にもかかわらず何人かの生徒達とすれ違い、初めは気にもとめずに歩いていたのですが、すれ違いざまに聞こえる生徒達の会話がいつもと少し違うことに気付いたのです。話の内容までははっきり分からず、聞こえてきたその声は『…本物だ…』と言っているようでした。それでもあまり気に留めず散歩を続けていると、また次の生徒達何人かのグループがすれ違いざまに小声で『本物だ』と言っているのが、はっきり聞こえたのです。それもどうやら私に向かって話している、ということがはっきりしてきました。
しばらく歩いていると、さらに他のグループが近づいてきて、7、8人の生徒達が小声で『本物よ!』と言うので、とうとう両手を上げて呼び止め、『君たち、何しているの?』と訪ねてみたところ、『今は介護福祉の授業中で、今日は体験実習をしているのです』とある生徒が教えてくれました。さらに話を聞いてみると、8人で1つのグループになり、1人が障害者、2人が両サイドで肩を貸しての介助者、前に3人、後ろに2人を配置し、安全を確保してのグループ実習をしているとのことでした。このグループは片足が悪い障害者の介助という設定で、真ん中に位置している生徒は足が曲がらないようにあて木をして白い包帯をぐるぐる巻き、疑似体験していたようです。他のグループでは、目の障害を疑似体験するため、アイマスクで目を塞ぎ手を引いているグループもあるとのこと。
これで、私とすれ違う時に『本物だ!』と話していたことが理解できたのです。実習を通して体験し、障害者の立場を理解することで今後の介護に役立てたいと話してくれました。障害者役の生徒に『体験してみてどうですか?』と感想を訪ねると『介助者がいないと外には出られないし、怖くて歩けません』との返答が。最後、彼らと別れる時に『体験することも重要ですが、これから先、交通事故をはじめ本人の不注意でも、他人に障害を与えてしまったり、反対に受けたりすることが突然起こるかもしれません。健康は当たり前だと思いがちですが、一度失われた物は取り返せません。体験実習が終わっても本日の体験を忘れないで下さい。そして健康な日常生活を大切にして欲しい!!』と言葉をかけました。「健康はあたり前」と思っていた私が、障害を受けていかに健康生活が大切かを実感しているだけに若い生徒さんに贈る言葉でした。
全国にこのような授業があるかは知りませんが、少しでも障害者の気持ちに近づいてくれた中学生に感謝しています。「車椅子を駅階段で駅員さんが押し上げているのを見かけても手伝ったことはなかったのですが、これからは積極的に手助けしたいです」と話してくれた女生徒もいました。日本は福祉についての理解度も低く、介護方法の手順を知らない人も多いと感じていましたが、体験実習していた生徒達の会話を通して、未来は明るいと実感すると共に、生徒達から若い力を頂いたような気がしました。あの日以来、年度が変わるたびにもう一度体験実習している生徒さん達に会わないかなぁ…と時間を少し変えたりして散歩をしております。
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