大切なものは失ってから知ることが多いです。
これまで目に不自由なく生活をしていた私なので、「見える」ということは「当たり前」であり、感謝の気持ちはもちろんありませんでした。たまに、寝不足で目が開かない事があったとしても、これは時間が経過すると解消されるもので、少しの間の我慢で済ませていました。しかし、ある時から時間が経過しても今まで通りに物を見ることが出来なくなりました。そこで初めて私は、目も『病気』になるのだと知るのです。
白内障は、自覚症状に気付くのが難しい病です。徐々に物は見えなくなるのですが、よほど「見る」ことに不自由を感じない限り、自分自身の目が悪くなっているとは思いもせず生活してしまいます。そのため、多くの人は白内障の手術を受けて完治した後、昨日まで見ていた世界がどれほど美しいものであり、世の中見えるもの全てが360度違っていたかに驚きを感じるそうです。それは、長年連添っていた奥さんが「急に年老いた老婆に見えたよ」と周りを笑わせるほどです。それ程、普段の生活において目が見えることに対する感謝の気持ちは薄いのです。それゆえに、目が不自由になった時の衝撃は何にも増して大きく、私を含め落ち込む人が多くいらっしゃるのです。
物が見えない不自由を、一時的に体験するにはアイマスクを掛けてみるのがいいと思います。ガイドヘルパー講習のなかに、二人一組で利用者と介護者(ガイドヘルパー)に交互になり、どちらの気持ちも理解する実習があります(必ずペアでないと事故のもとになるのでご注意を)。この実習で大切なことは、目が不自由な人はどんな気持ちでいるのか? 目が見えないこと以外の不自由さは何なのか? その他、不安なこと、何を求めているのかなどを実際に体験して、ガイドヘルパー自身が身をもって感じてみるということです。
利用者と介助者がペアで歩く実習では、利用者がアイマスクをして介助者の手を借りながら、「ドアを開ける・階段を上る・下る」そして、「エレベーターの乗り降り、エスカレーター利用」などの動作を体験します。短い時間ではありますが、実際に体験してみると、目の不自由な人が何を求めているのかに気付くことができるはずです。
例えば、お願いしたガイドヘルパーさんが元気良く挨拶を兼ねた自己紹介をしてくれたとします。すると、どれだけ利用者が安心するかを痛感していただけると思います。短い時間の付き添いであっても、介助の方から元気ハツラツとした声をかけてもらえるだけで、ほっとしますし、介助を安心してお任せできる気持ちにもなります。元気に声をかける・・・・・・この行為1つとっても、利用者側からみたら、介護者が自分としっかり向き合って真剣に話しかけてくれている、ということを身に染みて感じていただけるはずです。ガイドヘルパーにとって、そうした声かけ体験が今後の介助に大いに役立つことを私は期待しています。
朝、散歩をしている時、「おはようございます」だけの声に終わらず、「山田さん、隣の○○です」など、相手に誰であるのか分かる内容を一言添えてもらえるととても嬉しいです。普通、相手が誰であるのか目で見ればすぐ分かるので、自分の名を語るなんて「この人は一体、何を言っているのだろう?」と思われるかもしれません。ですが、見えない者にとってこんなにありがたい朝の挨拶はありません。
受講生の皆さんから体験実習の感想を聞くと、アイマスクを外しながら、『目が見えないと、いつもは気にかけていなかった音や匂いに対して敏感になる』と答えが返ってきます。障害を持つ者の気持ちが少しでも理解してもらえた、と思う瞬間でもあります。講習が終わっても今の私にはアイマスクを外すことが出来ないのが残念で仕方がありません。
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