札幌は5月の終わりごろになると、ようやく日陰の雪も溶けタンポポの花が咲いてきます。タンポポの花をじっと見ていると、幼い日のことを思い出します。草の上に座り、友だちの真似をして足指でタンポポの茎をちぎり、編んでみたところ、とてもきれいに花輪ができました。熱を出した友だちがいたので、その花輪を足首にひっかけて持っていきました。
65歳になると花輪も作れなくなり、ちょっと悲しい気持ちになります。しかし、春には心が燃えることがひとつあります。ヘルパーさんの手を借りて、ベランダのプランターにいろいろなものを植えることです。土に肥料をたくさんあげ、苗をたくさん植えます。今年は大葉・エゴマ・三つ葉・ミント・ミニトマト・ラディッシュ、あとは花々を植えました。窓のサンが高いので、車いすに座っていると、なかなかベランダに植えたところが見えません。首を上げ、体を思いっきり前に出して見ようとしますが、ひっくり返りそうになったのでやめました。ヘルパーさんに苗の植え方を細かく言わなければなりませんが、楽しいことです。私の動かない手が動いているようなイメージで、一生懸命土を掘っているような気分になり、「5センチくらい掘ってください」と頼みます。でも、植えてみると5センチでは足りませんでした。
ヘルパーさんも根気よく「こうですか? これでいいですか?」と何回も聞きながら動いてくださいます。まさにヘルパーさんは私の手です。大葉やトマトやラディッシュが豊作になったなら、ヘルパーさんたちにほんの少しだけおすそ分けをしています。採りたてのものはとても美味しいです。これからそれを育てて食べることが、私の生きがいになっています。生きていくうえでささやかな喜びをもつことが、大切ではないでしょうか。
私は初めて小説というものを書いてみました。タイトルは『風花に揺れるピアス』といいます。若い障がい者たちが社会の壁にぶつかりながら真実の愛を探して、生きる喜びを知るドラマです。キスシーンやベッドシーンもたくさん書いてしまいました。ヘルパーさんとの恋愛物語も書いてしまいました。ほとんど違反ですけれど、小説だから書いてもいいのです。本になることを私は願っています。