私は約30年間、ボランティアとヘルパーの手で生きている。そのときのドラマはありすぎて書き尽くせない。ドラマを知りたい方は私の本を読んでいただきたい。
若き日、恋人ができたとき、彼はベッドメイキングもせずに慌てて会社へ行った。タバコの吸殻もあり、朝来たヘルパーさんには必ず男性がいたことがばれてしまう。困って、困って悲しくなる。しかし、ヘルパーさんは「おはようございます。今日もよい天気ね!」と言って、黙ってシーツを換えてくださり、タバコの吸殻をゴミ箱に捨ててくださった。「ごめんなさいね。イヤな思いをさせたわね」と言うと、「いやいや、美智子さんにもやっと春が来たんだね。よかったよ。私なんでも手伝うからね」と言ってくださった。私はうれしくて涙が出た。このヘルパーさんこそ、私の手である。次の週、私はヘルパーさんにお礼にチョコレートを1枚あげた。
ボランティアで中学2年生の女の子が来たこともある。お母さんに「行きなさい」と言われて来たらしい。炊事はなかなかできなかったけれど、化粧はものすごくうまい。ある土曜の朝のこと、いくら時計を見ても彼女は来ない。私の膀胱も限界になってきた。家に電話をかけると、お母さんが驚いておかずを持ち、タクシーでやってきた。
後で聞いたら彼女は親に嘘をつき、彼氏とコンサートに行ったと言う。私が「どこか行きたいときには私も一緒に嘘をついてあげるから、来週はコンサートに行きたいから来れないと私にははっきり言って。お母さんには黙っておくから」と静かに言うと、彼女は大粒の涙を流し何度も謝った。「あなたの手は私の手なんだよ。あなたがいなければ私はトイレにも行けないし、着替えもできないし、お腹もすくんだよ。厳しい仕事と同じだよ」と言った。彼女はその日から私に嘘をつかなくなった。休みたいときは早めに教えてくれた。通っている中学校で私の書いた本をたくさん売ってくれた。高校生になっても彼女は来てくださり、北海道大学の歯学部に合格した。楽しい思い出であった。