100%リンパ癌が治ったのだから、ニューヨークへ行こうと決めた。しかし、障がいが重くなってきているので、いざ着いたら疲れ果ててどこへも行けなくては困るという恐怖を持った。
実際に着いたとき、私はとても元気でニューヨークの街を毎日車イスで走った。介助者と息子と2人のケアで、お風呂や寝返りを交互にしてもらった。とても身体が楽になり、ニューヨークの景色が輝いて見えた。介助者が1人だとケアに疲れてしまう。彼らだって1 人になりたい時間や行きたい所もあるだろう。しかし1 人になろうとしたとき急にお腹が痛くなり、トイレに行きたくなる。神経が拒否してしまうのである。
私は若いときから海外にたくさん行っているが、誰と一緒に行くかとても迷う。1ヵ月間この人と一緒に過ごせるのかと考える。昔、私がふざけて男性をたくさん口説いていたときがあった。離婚したばかりで心が荒れていたのである。一緒に行った介助者はなにやら途中で機嫌が悪くなり、ガム1枚で喧嘩になった。何が悪いのか私には見当がつかなかった。10 年ぐらい経ったとき、「スウェーデンであなたはなぜ不機嫌になったの?」と聞くと、「小山内さんは男性ばかりのほうを向いていたから腹が立ったのよ。私も若かったのよね。ごめんなさい」と言われ、なるほど…うまくいかなかった原因がわかったので、そのときから私は海外に行っても男性のほうを振り向かなくなった。正直に言ってくれた人に心から感謝したい。
旅行はお金もたくさんかかっている。美しい景色を見ても、介助者とケアを受ける人がうまくいっていないと景色も美しく見えなくなってしまう。あまり厳しい労働時間になってもお互いに疲れてしまう。今回息子が行けて本当によかった。またニューヨークに行きたいものである。世界一の国だが障がい者用のトイレが少なく、手すりだけついている。コロンビア大学のトイレは狭くてドアが閉まらなかった。たしかオバマ大統領がいた所である。戦争にお金をかけすぎた傷跡かもしれないと考えた。