視覚障害者になって毎日不自由な生活をしていますが、なかでも一番困るのが「目で合図する」ことです。諺にある「目は口ほどに物を言う」が実行できないのです。
例えば、「あの人は『KY』」で会議が終わらず長々と続くことがあります。『KY』とは、「その場の空気(K)が読(Y)めない人」を指し、一時期流行語になりました。会議は話し合いだけでなく、会議の進行状態や場の雰囲気を目で把握する必要があります。
現在、私は研修生に講義をしていますが、研修生が見えないために話がうまく噛み合わず、皆さんにご迷惑をおかけしているかもしれないと思う時があります。また、その場の空気が察知できず、不愉快な思いをさせていないか心配になる時もあります。私がまさにKYになっているかもしれず、自分自身に腹が立つことがしばしばです。
野球のピッチャー・キャッチャー間においては、次に投げるボールの種類をキャッチャーが指で合図して決めます。しかし、投げる直前に相手のスクイズをピッチャーが見破ったら、キャッチャーへの合図は目で行うことが多く、これは非常に便利なアイコンタクトの活用ケースだと思います。
「目は口ほどに物を言う」にぴったりなエピソードの一例としては、山田洋次監督の人気シリーズ「男はつらいよ」の映画があります。主人公の寅さん(渥美清)が毎回マドンナ役に恋をして、ラストシーンで必ず失恋して終わる、というストーリーで第49作まで続きました。何作目かは忘れましたが、当時アイドル歌手だった沢田研二がマドンナに恋をする青年役でゲスト出演した際、彼女をくどくための恋の手解きを寅さんがするシーンがありました。寅さん役の渥美清は、四角い顔で目が小さく細いのが特徴の男優です。寅さんいわく、「恋人を口説くには、口ではなく、相手の目を見て『あなたを愛しています』と目で合図し伝えるのが本当の恋である」と指導します。面白いのは、寅さんの目が細く小さいがゆえに、寅さん自身の気持ちが相手に伝わることなくいつも失恋してしまう、ということです。
また、最近では、電車やバスの車内でスマホばかり見て、周りの空気が読めずに怒りっぽい乗客が多くなっていると聞きます。最近起こる事件においてもしかり。その場の空気が読めずに起こるトラブルが実に多いそう。スマホと向き合うだけでその場の空気が読めなければ、突発的な言い争いのケンカの原因にもなり得る、ということなのです。皆さんには、神が与えてくれた健康な目を大切にしてもらい、ぜひとも有効活用してほしいです。
最近私は、ガイドヘルパーさんに不愉快な思いをさせないために、ヘルパーさんの声の抑揚で空気を読み、想いを汲み取ることができるようになりました。
ガイドヘルパーさん、本日も宜しくお願い致します!