毎日、何の抵抗もなく使っていた「あれ取って!」「これ、知っている」「あっちに行こうよ」「こっちが綺麗」などといった会話が通じなくなります。これは代表的な例ですが、目が不自由になると、この種の会話についていけないことは第2回でお話しした『アイマスク体験』でご理解いただけたことでしょう。
相手が内容を把握できるよう、すべての会話に具体的な言葉を追加しなければなりません。例えば、「あれ」の部分が「右手にある椅子の上から携帯電話」であったり、「椅子の上にある赤い座布団」であるなど、目的である品物に細かい説明を加える必要があるのです。乗り物の窓から見える景色にヘルパーさんがいつもの雰囲気で、「ほら見てごらん、きれい!」と、満開の桜を指さしながら私に話したとしましょう。でも、見えない私には何が綺麗なのかをその言葉だけで判断することはできないのです。つまり、テレビのアナウンサーではなく、その場を実況するラジオのアナウンサーにならなくてはいけないのです。
相手を思いやり、丁寧に言葉を交わしていた時代は過ぎ去り、いつの日からか、時代の流れとともに、日常生活はせっかちになり、言葉も短く省略され「通じればよい」という味気ないものになってきています。最近は「コンカツ、シュウカツ、ゴウコン、コンパ」など、目が不自由でない人でも理解しづらい言葉が増えてきたようにも思います。お年寄りにはなおさらです。
先日、家内と国立劇場に吾妻徳穂さん13回忌舞踊会観劇に半蔵門駅まで出かけました。我が家からは、つくばエクスプレスで北千住駅乗換⇒千代田線大手町駅乗換⇒半蔵門線の半蔵門駅までのちょっとした旅になります。この日のガイドヘルパー役は家内が務めましたが、都心まで長年通勤をしていた私に頼りがちで、そのうえ、本人は機械と方向音痴だからその道中は大変でした。まず駅で切符を買うのに「どのボタンを押すの?」、ホームに上がると「ここでいいの?」、乗り換えの駅では千代田線は「あっち?」と、質問が出るわ、出るわ・・・。普通の人でも、多くの線が乗り入れしている地下鉄大手町駅は乗り換えが大変です。
道を人に尋ねた際には「ここをまっすぐ行き、左に曲がり、右に階段を下りるんですよ」、と教えられたにもかかわらず、愛する家内は右と左を聞き違えたようで、約20分もホームを探して彷徨いました。やっとのことでホームに下るための障害者用エレベーターに乗り込んで、ほっとするのも束の間、今度は目的階数ボタンを押し忘れ、ドアが開くと同じ場所で下りる始末・・・。「あれ、ここさっきと同じホームだ!」と私に問いかけるのです。そんなこんなでようやく半蔵門駅へ着きましたが、地上へ上がると「あの建物が国立劇場かしら」とさらに質問は続きます。もちろん私には見えるはずもありません。国立劇場へやっとの思いで到着して、ドッと疲れが出たのでした。
今お話したような場合においては、思いつくがまま現状を伝えてしまうことで、利用者が不安に思う可能性があります。出かける場所が不慣れだった場合はなおさらです。前もって、ある程度その旨を伝えておく事も大切です。また、外出先で道に迷って困った時は、利用者を連れて歩き回ることは避け、椅子のある安全な場所に待たせて対処するということも利用者の不安を軽減させるコツです。
これまで外出は自動車、都心についての知識なし、もちろん通勤経験もなし。おまけに機械音痴も重なったガイドヘルパーの家内には、私も勉強させて頂き、今回のレポートが出来上がりました。私はこの先しばらくガイドヘルパーを家内にお願いする身であり、また、無料でお世話してもらう立場でもあるので、ここはグッと我慢のしどころです。
◆セミナー申込はこちら
http://www.helpa.jp/course/course_list/