『一度あった事はニ度ある』という言葉を聞いたことがあります。
ご承知の通り「ハインリッヒの法則」、労働災害における経験則の一つで、「1つの重大事故の背後には29の軽徴な事故があり、その背景には300の異常が存在する」というものです。重大災害の防止のためには事故や災害の発生が予測された『ヒヤリハット』の段階で対処することが必要であるとしています。
これは福祉従事者に置きかえると、300回もの『ヒヤリハット』に29回の『何か軽微な兆候や事故が起こって』いながら、そのまま対処方法を考えず放置したことにより30回目でご利用者さんに重大事故を与える、ということになります。
視覚障害者が一人で歩いている時に『ヒヤリハット』することは見えていないので、物事が通り過ぎた直後、実際に突き当たってから知る直接体験となります。ガイドヘルパーをしている時に『ヒヤリハット』するのは事故を起こす予測がある場合です。
例えば、スーパーなどで階段を利用して目的の売り場に行く際、階数の間違いに気付き、上り階段の途中なのに即座に下りる態勢をとることがあります。また、歩いている途中で急に止まり、突然進行方向を変えたことで後ろを歩く人と正面衝突した経験のある健常者の方もいらっしゃるのではないでしょうか?特に視覚障害者の場合は、階段の途中での方向転換は大変ですから、間違いに気付いても安全確保のため、最低でも次の踊り場までは歩いて行き、そこで落ち着いて方向転換することをお願い致します。
横断歩道を渡る時も同じです。Uターンしたくても急に立ち止まらず最後まで渡りきり、次の信号を待ってから引き返すことで事故防止対策になります。
では、電車に乗る時はどうでしょう?上りと下りの間違えに気付き、ベルが鳴っているのに急いで降りようとするような場合です。これは健常者でも危険な行為なのに、視覚障害者には危険がいっぱいで『ヒヤリハット』を通り越し、身の危険を感じる一瞬であります。次の駅で折り返し電車に乗り換えれば時間はそれ程変わりません。安全が最優先です。
ガイドヘルパーさん本人だけであれば素早い行動がとれますが、そこは視覚障害者と一心同体での行動を心がけ、無理は禁物です。アイマスクで体験した時に自分がどれほど「不安いっぱいであったか」を思い出していただければ『ヒヤリハット』度はご理解できると思います。私が経験する『ヒヤリハット』で一番多いのはやはり自転車です。自転車を運転する人は見えているから、追い越しやすれ違いのタイミングを今か、今か、と後方で待っていることでしょう。しかし自転車は音がほとんどしないので、近づいてきていてもなかなか気付きません。歩行している耳もとに、突然風圧を感じた時は『ヒヤリハット』する一瞬です。一つ間違えば大きな事故となりますので、必ず事前に声をかけていただきたいと思います。
エコ時代と共に音の静かな電気自動車や電動バイクが求められ、各メーカーとも試作品を発表しておりますが、視覚障害者にはありがたくないエコ製品です。これまでと同じ走行擬似音で知らせる実験も行われていると報道されていますが、ぜひそうした対策が万全のエコ自動車、電動バイクなどの完成を希望しております。
新幹線熱海駅で1974年に初めて『ホームドアー』が設置されました。これは、「こだま」停車駅で「ひかり」が通過する際の風圧で人が吸いこまれる事故が発生したことによる再発防止のために考え出されたもの。駅ホームを歩いている視覚障害者を見て『ヒヤリハット』することがありましたら、声をかけて介助をお願い致します。最近では在来線の都心駅にもホームドアーの設置が急がれているというニュースを聞きました。視覚障害者だけに限らず、ホームからの落下事故は多くあります。30回目の重大事故にならない為にも早期設置、対処をお願い致します。
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