山崎恵子さん(78歳、仮名、女性、要支援2)は、夫が長期入院中のため一人暮らしをしています。子どもは一人いて海外に住んでいます。夫の病院の面会には、現在はコロナ禍で行けていません。山崎さんには糖尿病、膝関節症があるので、健康に配慮しながら生活しています。訪問介護サービスは週2回で、買い物と調理を一緒に行っています。住まいは戸建で近隣には商店やクリニックがあり、買い物や受診には便利です。ごみは玄関先に出しておけば収集してくれます。近隣とのおつきあいはあいさつ程度です。
山崎さんは几帳面で掃除機をかけてから拭き掃除をしますが、「最近は屈むのが苦痛なのでほどほど、調理も面倒になってきたのよ。だんだんできなくなることが多くなってきて不安だわ。今日は何もやりたくないの…」と。これまでも同様なことはあって、励ましながら何とか一緒に調理をしましたが、今日は黙って私の話を聞いています。
しばらくするとため息をつきながら、「でも、私が元気でいなければね、買い物行こうか」「そうしましょうね」と近くのスーパーに向かいます。歩くのがゆっくりでふらつきそうなので腕を組んで店内に入ります。山崎さんは好きな果物を見て「高いけどご褒美にしようかな」と迷っています。「おいしそうですね」「たまにはいいわよね」「そうですね、元気が出そうですね」「最近のイチゴはいろいろな種類があって迷うわね」などと言い合いながら食材を一緒に選びました。
買ってきたものを冷蔵庫に入れ、「今日はオムレツ、サラダ、スープ、デザートはイチゴ」と、自分で材料を準備します。「オムレツの中身はキノコと玉ねぎ、鶏ひき肉。手が動きにくいので玉ねぎを刻んでほしいの。スープはミックスベジタブルとベーコンで」と、いつもより手際よく進みました。時間内でできるだろうかと案じていましたがひと安心。盛り付けもきれいにでき、テーブルに並べていたら急に手を握ってきて「ありがとう、誰とも話をしないので切なくて、声も出なくなってしまうし、先のことを思うと不安ばかりで」と言います。「コロナで話すのも最小限にしていてごめんなさいね」と返すと、「わかってるわ、でも」と沈黙の後「ありがとう、ありがとう、ありがとね」と繰り返しました。
コロナ禍で感染防止が優先になっていて、会話が少なくなっていたことを反省しながら帰路につきました。山崎さんの気持ちが和らいだ様子を見ていると、訪問介護サービスとは何か、考えます。