品川さん(仮名・女性)は90歳でひとり暮らしです。10年前に夫を、7年前に息子を亡くしました。その頃から足腰の痛みが出てきて、掃除や買い物、洗濯の物干しなどが不自由になってきたため、訪問介護サービスの生活援助を週2回、デイサービス週1回を利用するようになりました。移動はゆっくり手すりや物につかまっていますが、体調が優れないときはいざっています。簡単な調理は、椅子に座り自分でつくります。配食弁当や通販を上手に利用し栄養に気をつけています。病院の受診や書類などは近所に住む姪が、ゴミ出しや回覧、玄関まわりの掃除や草取りは、近所の方が協力してくれます。
ヘルパーが掃除を始めると、品川さんはいつも仏壇にろうそくを灯し、お線香に火をつけ、火が消えるまで手を合わせています。仏壇のお水やご飯は、毎日朝食前にお供えするそうです。「いつもお線香をあげているのですか?」と聞くと、「火事を出したら迷惑をかけてしまうので、ヘルパーさんが来たときだけあげるのよ、本当は毎日あげたいの…」と沈黙。「いつまでこうしていられるかしら、姪も一緒に住もうと言ってくれるけど、仏様がお盆や正月に帰ってくるところがなくなってしまうでしょ、この家を守るのが私の務めなのよ…」と言い、また沈黙。そしてこうおっしゃったのです。「この先どうすればいいのかしらと眠れないけど、ずっとこの家にいたいし、この家を守っていたいの。でもね、ご先祖さまは姪たちが守ってくれるけど、この家はお父さん(夫)と創ったのよ…。だからヘルパーさんが来たときに思う存分お線香をあげたいの、1週間に2回だけの楽しみなの…」と、品川さんの目の奥にきらりと光るものが。黙って品川さんの手を握ると、ぎゅっと手を握り返してきました。
家事援助、生活援助とひと言で言うけれど、その人の生きてきた過去を理解し、その思いをさりげなくフォローしつつ、いままでの生活習慣を壊さずに、現実の不自由な場面を安全に過ごせるような環境にしていくのがヘルパーの務めです。なおかつご利用者さんの意欲をなくさないよう、またより引き出していくために、どのように個別性を尊重しながら援助していくのか、それをご利用者さんの状態が変化していくなかで考え、実践します。援助は多様で、いつもこれでよいのかと複雑な気持ちです。だからこそ、奥深くやりがいのあるものなのですが、特に生活援助は、見えにくいことが多く、その人の築いてきた生活を大切にできた時は、次はどのように工夫しようか、と新たな力と学びが積み重ねられます。