金井君子さん(76歳、仮名、女性、要介護1)は集合住宅の1階でひとり暮らしです。近所に次男が住んでいて、その妻が週2~3回訪問しています。最近物忘れが目立ってきたので、デイサービスを週1回、町内のミニデイに週2回、訪問介護は週2回利用しています。入浴はデイサービス利用時と次男の妻が訪問したときに行っています。次男の妻からは「何とか髪も洗っているので、できるだけ自分でできるうちはこのままにしたい」と言われています。調理はレンジで温める程度、火は使いません。本人も「火事になったら大変だから」と、訪問介護サービスのときにヘルパーと一緒に調理しています。
あるとき訪問すると、金井さんは出かける準備をしていました。「どこかにお出かけですか?」「えーちょっと近くの信用金庫まで」「急にお金が必要なの」「孫の友達から連絡があって、孫が友人と争いになってお金が必要で、これから取りに来るというの」「ちょっと待ってください、お孫さんに電話で聞いてみたら」「だって急いでいるのよ、困っている孫を助けたいのよ」と聞く耳を持ちません。バッグを持って外に出、急ぎ足で行ってしまいました。事業所に連絡を、と思いながら、先に信用金庫に電話をして、後を追いかけました。
信用金庫の人も要件を丁寧に聞いて「お孫さんに確認してからではどうでしょうか」「急いでいるので早く連絡してくださいな。自分のお金なのに、何で聞くのかしら変な人たち」とブツブツ言っています。信用金庫の人が孫の携帯に電話を入れました。事の次第を説明し電話を代わると「おばあちゃん、それは違うよ、争いなんかしてないしお金は必要じゃないよ」「えーだってあんたの友達からかかってきたんだよ」「名前はだれ」「名前ねえ、だれかしら」「おばあちゃん、今はやりのオレオレ詐欺だよ」やっとだまされていたことに気づいたようですが、「ほんとにそうかしら、私に心配かけたくないからそう言っているのではないかな」と何となく納得のいかない様子です。
いつもはカードの暗証番号も忘れて、息子さんたちに何度も聞くのに、その日は覚えていました。可愛いお孫さんの窮地を助けたい気持ちが強かったのでしょう。最近では手を貸したり声をかけることが多くなっていましたが、帰宅後は、金井さんが献立を立て調理をしました。手の動きもよく、出来栄えもいつもよりよいように感じました。できるところはまだまだたくさんあるので、観察力が必要です。