小川次郎さん(80歳・仮名・男性・要介護1)は、3年前に妻が特養に入所して以来、ひとり暮らしです。最近、加齢とともに身体機能が低下し、膝関節症の悪化とともに、移動や立ち座りが困難になってきました。
長女は隣市に、長男は遠方にそれぞれ住んでいて、長女が週に1~2回ほど来所し買い物と入浴介助をしています。訪問介護サービスの利用は週2回、掃除と調理がメインです。長年暮らしてきた家の日用品や置物、飾り物、食器などはかなり古くなっていますが、それぞれに思い出があるようです。他者から見れば、すっきり片づけたほうが住みやすいのではないかと思うことも度々です。
ある時掃除をしていると、小川さんが遠くから「古い飾り物は捨てようかな」とおっしゃるので、「そうですか」と答えながら掃除機をかけていました。「色々なものが置いてあるので掃除がしにくくて悪いね。でも、あまりすっきりしていると我が家ではないもんね」と。他者から見ると、片づいていたほうが移動しやすいし、気持ちがいいのではないかと思うのですが、「ホテルや旅館はきれいだけれど落ち着かないよね。何日もいたいとは思わないね」とも。確かにホテルや旅館は掃除が行き届いているので、清潔ながら生活感はあまり感じられないかもしれません。
家庭にはそれぞれ、それまで暮らしてきた生活の連続性や関係性があり、それらが安住をもたらしているのかもしれないと考えながら、小川さんにふと目を向けると、笑顔で「そろそろ色々なものを片づけていかないとね」と飾り物をはずしてごみ袋に入れていました。
小川さんの今までの生活を把握、理解し、暮らしやすくしていくことこそ、生活援助ではないでしょうか。妻や子どもと家庭を築き、今の暮らしになっていることを大切にして、本来の自分で常にいられることが大切です。ハウスキーピングではない、生活援助としての掃除の大切さを感じながら拭き掃除をしました。数日後、小川さん宅に行くとごみ袋がいくつか。「少し片づけたよ、夜トイレへ行きやすいように」とのこと。
小川さん自身が生活を見直していく姿勢は、とても頼もしいです。時間はかかりますが、日常生活の些細な部分から自分を変えていくことでまた新たな暮らしが始まります。掃除をするということは、生活全体を支える一部であって、分断されたサービスではありません。生活の連続性や関係性が重要であることを再確認し、一人ひとりのアセスメントを大事にしたいと思いました。