橋本喜美さん(82歳、仮名、女性)は、次女と二人暮らしで、要介護1。次女は就労しているため、日中は橋本さん一人です。物忘れが多くなり、訪問介護サービスを週3回の利用に増やしました。簡単な調理を一緒にすることで、認知症の軽減を図ることが目的です。料理が得意な方で、半年前までは自分で買い物をし、献立を考え、調理をしていたのですが、最近は同じ料理ばかりで、味もおかしいことに次女が気づきました。
訪問介護では、週3回、3人の訪問介護員が支援しています。当初「今日は煮物を作ったよ」と生き生きしていましたが、3ヵ月経過した頃から「わからなくなっちゃったわ」と不安そうな表情を見せるようになり、心配になった次女から事業所に連絡が入りました。訪問介護員たちの記録には、立ち止まっていることが多く、手を動かそうとしないといった内容のコメントも見受けられたため、サービス提供責任者が橋本さんを交えたカンファレンスを開催して事情を把握することになりました。実際行っている支援方法を再現しながら検討した結果、本人にやってもらうことや声かけ方法が各訪問介護員によって違うことが明らかになったのです。本人に火をつけてもらい、様子を見守る人もいれば、あらかじめ訪問介護員が火をつけ、そのことを説明してから鍋の準備をしてもらい、その様子を見守る人もいて相違があったのです。それが混乱の原因でした。
そこで手順書を見直し、調理における支援内容を統一化。利用者の混乱を避けるために「一緒に行う」という支援内容と方法を具体化していったのです。書面で伝えることはなかなか難しく、具体的に書くと手順書が膨大になり、訪問介護員が理解しづらくなります。そこで“支援する際の視点を明確にすること”をポイントにしました。
数ヵ月が経ち、橋本さん自らが台所に立ち、鍋を準備・食材を切り・鍋に入れ、点火する一連の行為が、見守りによって出来るようになりました。まだまだ簡単な調理にすぎませんが、表情は明るくなり、以前の得意料理も話題に出てくるように。今回のケースで、支援方法の相違が、認知症の方の混乱を招くという怖さを職員全員が学び、また、手順書の重要性について再確認しました。手順書は尊厳の保持、リスクの回避、有する能力の活用、身体・精神の変化といった視点を具体化しておくと、わかりやすく実用できると思います。