中町秋枝さん(82歳、仮名、女性、要介護1)は長男と同居しています。慢性リウマチで日によっては痛みがあり、身体が思うように動かないことがあります。長男は出張が多く中町さんが一人になりがちなので、訪問介護サービスを週2回(調理と掃除)、デイサービスも週2回利用しています。集合住宅の1階に長年住んでいて近隣の方が時々声をかけてくれます。新型コロナウイルス感染防止でデイサービスが週1回になり、家でテレビを観て過ごすことが多くなりました。買い物は近所の方や長男がしています。
もともと調理は好きでしたが、最近では誘っても「身体が痛い」と言って見向きもしません。ところが、ある日訪問すると、いつもより明るい声が返ってきました。気分がいいのだなあと思い、「何を作りましょうか」と声をかけると、「身体が楽なので久しぶりに餃子を作ってみようかしら」。自分で作る気持ちがあるのだなと思い、「いいですね、すぐ準備しますね」。こんなことは今までなかったので「すごいですね」と思わず言ってしまいました。餃子の皮は2袋あるので「たくさん作るのですか」「そう、冷凍しておこうと思って」。調理は中町さん主導で進んでいきました。「キャベツやニラ、玉ねぎは細かく刻んでね」。中町さんの言うとおりボウルに豚ひき肉を入れ、調味料の準備もします。餃子のあん作りが進み、その間も昔の話など会話が弾みました。包み方も「私はいつもこのようにしていたの」と見本を示してくれたのでそのように包みました。立ったままでも疲れは見せません。説明どおりの焼き方で、焼き色も良い加減にできあがりました。「思っていたようにできあがってうれしいわ。なんだか今日は充実していたわ。最近気持ちが沈んでいたので、これからもいろいろ考えて作りたいわ」「私も嬉しいです。お手伝いしますので」。
何がきっかけでそうなったのかはわかりませんが、中町さんの気持ちを受け入れて共有し、できるところはしていただきながら、見守りつつ支援する。いつもと違うことを大切にし、一人ひとり生活のしかたや考え方の違いを理解する。訪問介護サービスは一人ひとりの自立した生活を支援することが目的なのですが、私たちは、ついつい訪問介護計画にある方法や行為に捉われがちです。訪問介護の目的をしっかりと認識しないと単なるサービスになってしまいます。常に専門職としての意識を忘れない、当たり前ですよね。