「食べる」という機能を忘れさせない
若い方にまず考えていただきたいのは、「食べる」とは何か?ということです。栄養を摂取するだけじゃないですよね。私たちだって、美味しいもの、好きなものを食べたら、ちょっと幸せな気持ちになる。ともすれば、食べる楽しみを支えるのが食事介助であるといってもいいでしょう。
そこで、特に問題となってくるのが胃ろうの方です。胃ろうは誤嚥性肺炎の予防や栄養状態の改善には欠かせません。なかでも問題なのは、再び「食べる」ことに向かって、支援がなされないままに過ぎていくケースが多い、ということです。もちろん、食べてはいけない人もいますが、胃ろうが必要なのは一時期だけで、少しは口から食べてもよい人もいます。胃ろうに頼りすぎてしまうことで、食べる力を回復することができなくなってしまうことだってあります。そうでなくとも、再び食べるようになるには大変な時間がかかるのです。口の筋肉も使わなければ衰えますし、食べて舌を動かさないと唾液も出にくくなります。胃ろうの設置が増えてきている今だからこそ、「食べる」という機能を忘れさせないために、どんな支援をしたらいいか、改めて考えてほしいと思います。
医療との連携のために知識と技術を身につけたい
具体的な解決策には、第一に医療職との連携があります。医療職にとって「食」の一番の課題は、安全な栄養補給。慎重になるのは当然です。一方で、在宅患者の生活を大切にしたいという思いは、医療職も介護職も同じです。訪問看護師や訪問医師とよく話し合い、いつ頃までにどのぐらい食べられるようにするのか、ある程度の目標値を一緒に決めて、相談しながら進めていくことは十分に可能です。そのためにまず大前提として、介護職自身が医療的な側面も含めた「食べる」ことについての知識と食事支援の技術を養うことが必要です。特に、誤嚥性肺炎は介護技術の未熟さによって起きることが多いので、医師や看護師が安心して任せられるだけの技術は習得しておきましょう。こうした知識と技術があって初めて、「食べる楽しみ」を支援することができるのです。当然ながら、サービス提供責任者(サ責)はきちんとした研修体制をつくることも必要です。特に在宅介護は、介護職が一人で訪問するため自分の知識や技術を客観的に評価しにくい部分もあります。介護職同士で成功例を発表し合ったり、不安や疑問を率直に話せる場づくりを心がけてほしいところです。
相手のこだわりを発見する努力を
解決策として2番目に挙げられるのが、相手の食べ物の好みやこだわりを知ることです。好きなものを味わいたいという想いは、自ら食べる意欲を引き出します。ここで忘れてはならないのが、食に限らず生活へのこだわりは一人ひとり違うということ。それを発見するのは案外難しいかもしれません。ではどうしたら分かるのでしょう?
まずは、家族に確認することです。以前こんなことがありました。私が入浴介助をしていた時のことです。ご利用者さんにどうも気持ちよさそうな顔をしてもらえなかったことがあり、ご家族の方がいらしたときに確認してもらいました。すると、「いつも髪は最後に洗っていた」とおっしゃるのです。私がした介助は、自分の習慣をもとにした介護方法だったのです。そこで、順番を変えたら、とてもいい表情をしてくれました。生活のこだわりって、こういう小さなところに表れるんですよ。家族に聞けば、例えばプリンとか、負担なく食べられて好きなものがきっと見つかるはずです。
では、家族がいない方や自分で話せない方はどうするか、それは色々試してみることです。飲み物なら、日本茶や紅茶、コーヒーなどをちょっと口にふくんでもらう。表情をよく見れば、何が好きかが分かります。まずはほんのひと口でいいから、味わうことを目標にしてみましょう。
また、食べることを忘れてしまった方には、例えば歯みがきの際に、子ども用のバナナ味などがついた歯みがき粉を、口腔ケアにレモン水を使うなど、工夫の余地はいくらでもあります。少しでも味わう楽しみを贈ってほしいと思います。