介護職は本当に若い人に選ばれない3K職種なのか
ここ数年、介護労働に携わる人材の不足が大きな社会問題となっています。施設・在宅とも人材確保に苦労している事業所が非常に多いですね。また、せっかく就職しても介護職は他の産業より離職率が高い。最近1年間の介護労働者全体の離職率は2割を超えています。
離職した人の勤続年数をみると、驚くべきことに「1年未満」が42・5%、「1年以上3年未満」が38・3%(表1)。少し前の卒業生は「石の上にも3年」じゃないですが、とにかく3年間は何が何でもがんばるという人が多かったものですが、こうしたデータをみていると、今、介護の世界では「1年目の壁」「3年目の壁」が、若手職員の前に大きく立ちはだかっていることを強く感じます。
介護職を志し、国家資格を取得して晴れて就職した人たちが、なぜこうも早く職場を去っていくのか。巷では「介護はきつい、汚い、危険の3K職場だから」とか、最近では介護職の新3Kとして「きつい、給与が安い、結婚できない」などと言われたりしています。でも、それが介護職離れの本当の理由なのでしょうか。そして、介護職は若い人にとって3Kだの新3Kだのと言われるような、そんなに希望の持てない職種なのでしょうか。
賃金以上に求めているのは「働きがい」や「自分の成長」
介護職に就いた人に、「現在の仕事や勤務先の選択理由」を尋ねた調査があります。
1位は他を抜きん出て「働きがいのある仕事だと思ったから」で64・6%。続いて「自分の能力・個性・資格が活かせると思ったから」が36・8%と続きます。「給与等の収入が多いから」はわずかに4・8%(表2厚生労働省「平成16年介護サービス施設・事業所調査」をもとに東京大学社会科学研究所特任准教授堀田聰子氏作成)。介護の世界に入ってくる人は、「働きがい」や「自分の力の発揮や成長」を求めています。
また、現在の勤務先を問わず「今の仕事を働き続けられる限り続けたい」と考えている人が正社員でも非正社員でもおおむね過半数に達しています。介護職を「一生の仕事」と考えている人がこんなに大勢いる。何だか勇気がわいてきませんか?
だとすれば「1年目の壁」「3年目の壁」はどこにあるのか。訪問介護の場合、教育カリキュラムがきちんと整備されていて、職場内研修がしっかり実施されている事業所もありますが、規模の小さな事業所では研修体制が十分でないところも少なくありません。新人が、いきなり利用者・家族と1対1で向き合うことになる。自分のやり方は適切なのか、利用者のニーズにきちんと応えられているのか……悩んだり迷ったりしたときの相談相手もフォローアップ体制もなく、ひとりで抱え込んでしまうんですね。
また、施設から訪問介護に移ってきた場合、施設介護の経験は積んでいても、やはり施設は集団対集団ですから、本当の意味での個別ケアや、利用者や家族、他職種との関係づくりに苦労する人も多い。
いずれにしても、職場内研修がしっかりしている事業所は確実に離職率が低い。その意味では、現在進められている介護福祉士養成カリキュラムの見直しとともに、事業所の規模に関わらず、訪問介護の現任研修の実施規定を明確化する必要もあるのではないでしょうか。
1年目の壁も3年目の壁も0年目の壁も(!)必ず乗り越えられる
私自身、病院から在宅ケアに関わるようになって、利用者の方が笑顔を見せてくれたとき、生きる張り合いを持ってくれたときに、病院時代には味わったことのない大きな喜びを感じました。その一方で、利用者の突然の死など一生忘れることのできないつらい経験も数々あります。でも、そのつらさ・壁を乗り越える力は、やっぱり「私を待ってくれている利用者や家族がいる」という、人との関わりなんですね。
1年目、3年目、そして5年、10年経っても訪問介護の壁には誰もが必ずぶつかります。でもその壁は絶対に乗り越えられるし、経験値も確実に高くなっていく。その先に新たな楽しさ、次の展開が必ず見えてきます。在宅での個別ケアは工場現場のようにマニュアル化のできない仕事です。だからこそ想像力、創造力、人間性が養われていく。一生成長し続けていける仕事です。若手の皆さん、ぜひ一緒にがんばっていきましょう。
※文中特に表記のないデータは介護労働安定センター「平成19年度版介護労働の現状」を出典としています。