明日はもう、この方のケアはないかもしれない。だから・・・
『高齢者はいつ倒れるかわからない』ヘルパーにはまず、このことを心にとめておいてほしいですね。昨日まで元気だった人が、翌日訪問したら亡くなっていたというケースは、決して珍しくありません。看取りなくして介護の仕事は語れないといってもよいくらいです。ところが核家族化が進み、身近に死を体験したことのある若い人は近ごろでは少ないのが現状です。それだけに、ケアしていた方が亡くなったときのショックは大きいでしょう。
かくいう私も若いころ、小児病棟で看護師をしていたときはそうでした。患者さんが亡くなると哀しくて、そのたびに「子どもは死なせちゃいけないんだ」と思っていました。でも、成人病棟へ行くと高齢者の看取りの場で、家族が葬儀のことを話していたりする。最初は驚きましたが、だんだん本人もそのほうが安心なのかもしれないと思うようになりました。その方の生活を大事にしてきた家族だからこそ、死に際しての準備、何をどうして欲しいのかが分かるんですよね。
ヘルパーも同じです。明日はもう、この方のケアはないかもしれない。だからこそ一日一日を大切に、今日を大事に介護をする。その気持ちが、いざというときに落ち着いて行動する助けとなるはずです。
後期高齢者の在宅死は急速に増えている
特にこれからは、ヘルパーが利用者を看取るケースが増えると考えられています。最大の理由は言うまでもなく、高齢者の単独世帯の増加。
国立社会保障・人口問題研究所では、2020年に高齢者世帯の割合がすべての都道府県で30%になるとし、一人暮らしの高齢者は全国平均で1995年の約2・9倍になると推計しています(表1)。死亡者中に占める後期高齢者の割合も、2006年の64・5%から2015年には76・7%となる見込みで(表2)、東京都監察医務院の調査でも、2008年に東京23区内の自宅で亡くなった65歳以上の独居者は、2002年の1・6倍に増えたと報告されています。1976年に在宅死を上回って以来、病院死は増加を続け80%にまで達しましたが、今後は病院では対応しきれなくなるのは必至です。結果として、在宅死は増えていくとみてよいでしょう。
事業所は「看取り」の体制を、ヘルパーには死の準備教育を
訪問看護が入っていなければ、高齢者の体調の変化に気づくのはヘルパーしかいません。もちろん、心構えだけで看取りができるわけもなく、きちんと対応できるシステムが必要ですが、これだけ在宅死の増加が取沙汰されているわりには構築されていないのが現状です。ヘルパーの心理的な負担はとても大きいといってよいでしょう。
訪問していて「おかしい」と感じたとき、容態の急変がみられたとき、あるいは死後の第一発見者となったときなど、起こり得る事態ごとにどう対応するのか。また、本人と家族が望むのは在宅死なのか病院への搬送なのか、といった意思確認の情報共有システムなども、各事業所できちんとマニュアル化しておいてほしいところです。対策が取られていない場合は、今のうちからサービス提供責任者(サ責)を通じてきちんと確認しておきましょう。同時に、死を間近にしたご利用者さんの身体状態を理解する基礎的な医学知識をはじめとした「看取りの研修」を受けたり、職員同士でそれについて話し合うなど、自分でも「死の準備教育」をしてほしいものです。
それは、冒頭にお話ししたように、高齢者の一日一日を大切にケアすることにつながりますし、同時に、あなた自身が「生」を見つめ直すきっかけにもなるでしょう。