利用者さんの要望を見出す視点をもつことの大切さ
サービス提供責任者(サ責)の存在なくして利用者さんの自立支援はありえない。私はそう考えています。では、『そもそも自立支援って何だろう?』今回は、そのことについて皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
介護保険制度が始まって以降、自立支援という言葉が当たり前のように使われるようになりました。でも改めて「自立支援とは何か?」と問われると、分かっているようで分からない人も多くいらっしゃるのではないでしょうか。自立支援って、難しく奥の深いものだと私自身も日々実感しています。私が自立支援を一言であらわすなら「選択できること」ではないかと考えます。利用者さんが選択できる。そのためには、その人が真に望んでいる生活や人生とはどういうものなのか、常に意識する視点を持つことが大切です。特に今の利用者さん世代は、自分の希望をなかなかはっきりと言葉にしない人が多いですよね。真のニーズや希望を実現するためには、支援の一つひとつの場面で言語・非言語コミュニケーションを駆使しながら、その人の真の願いを見いだし、そこに向かって出来ることを伸ばしていく必要があります。そうした日々の小さな積み重ねが、介護職の仕事の根幹と言えるのではないでしょうか。
小さな達成感の積み重ねが自立を後押しする
「選択できること」とは、相手が意見を言える場をつくることでもあります。「どうなさいますか?」と相手に問いかけて、言葉や表情から相手の意向をくみとっていく。
例えば「上着を着ましょうか」と上着を着せて、次の行動に移るとします。それは、利用者さんが真に望んでいる生活につながる行為でしょうか? 本来、自立支援のための介護であるはずが、無意識のうちに“業務優先の介護”になっていませんか? 昔の介護教育が全介助モデルから出発していることもあって、業務としての効率を優先した介護に陥りやすい傾向がまだ残っています。自分自身の達成感・満足感はあっても、利用者さんにとってはどうだっただろう・・・そうしたふり返りの視点を常に持っていることが大切です。
この場合ならまず、「上着のボタンはかけられますか?」と聞いてみる。「できない」「嫌だ」と言われたら、そこで終わりではなく「じゃあ今日はひとつだけやってみましょうか」と声かけをしてみる。そんなやり方も考えられます。些細な違いかもしれませんが、こうした小さな目標値をどれだけ設定できるかによって、自立支援のあり方は大きく変わってきます。そして、「何かができた!」という達成感は、人を次のステップに押し上げる原動力になります。
自立支援を方向づけるのは、利用者さんの近くにいるサービス提供責任者(サ責)の役割
選べる、できる、楽しい、快適だ、美味しい……自立支援を考えていると、不思議とプラスの言葉がどんどん思い浮かびます。それは自立支援の本質がそのような方向を目ざすものだということの証ではないでしょうか。
ケアプランに、利用者さんの声や真のニーズ(図1)が十分反映されているとは限りません。ケアプランをもとに、いかに具体的な自立支援に向けた援助計画を訪問介護計画書の中に落とし込んでいけるか、これこそ、サービス提供責任者(サ責)の力量が問われる部分だと思います。その人が真に求めているニーズが何なのか、現場で利用者さんの一番近くにいる介護職がそれに気づき、サービス提供責任者(サ責)を通じてケアマネジャーへフィードバックしていく。自立支援を方向づけるのは、ケアマネジャーよりサービス提供責任者(サ責)ではないか、そう私が感じているゆえんでもあります。
訪問介護員によって、また同じ利用者さんに関わる職種によって、ケア内容や方向性がバラバラにならないよう、援助目標や具体的な援助内容を共有できるようなツールも必要だと思います。だれが見ても理解でき、納得できるような、記録の標準化が今後必要となってくるでしょう。
「地域の中での自立支援」を意識することも必要
自立とは、身体的な自立だけでなく、精神的・社会的自立など、生活全般が含まれます。つまり自立支援とは、その人が生きること全体を支援することにほかなりません。その意味でも、サービス提供責任者(サ責)がICF(国際生活機能分類)の視点を持っていることは、自立支援において非常に重要になってきます。自立支援とは目標志向型の支援でもあります。人は今していない活動でも、外部からの働きかけやモチベーションによっては「できる活動」が、実はたくさんあるものです。生活のあらゆる場面において、「している活動」や「できる活動」をいかに引き上げて、その人が日常的に「する活動」にしていくか(図2)。全介助の人や重度の認知症の人でも、それは変わりません。本人の希望する方向へ向かって。自立支援はそれこそ看取りのときまで絶えず見直し、変更しながら継続していくものなのです。これからは戦争を体験していない世代が高齢期を迎えます。彼らはこれまでの高齢者像とは異なり、自らの希望するところをきちんと主張するようになってくるでしょう。
私は山口県にあるデイサービス「夢のみずうみ村」がひとつのモデルを示しているように思います。ここは100人規模の大型デイサービスですが、デイのプログラム内容は「自己選択・自己決定」方式。何もしたくない人には「ごろ寝」なんてメニューもあります。しかもここは施設内で流通する独自の通貨があり、何かを教えたり、賭け事をしたりして稼ぎ、その稼ぎでコーヒーを飲んだりしているんですね。
今、環境保全やボランティアと地域通貨を結びつける取り組みが各地でみられますが、今後、こうした地域の活動と高齢者の自立支援が大きな関わりを持つようになると思います。経営者やサービス提供責任者(サ責)のみなさんも今、地域でどんな活動が行われているか、アンテナをはっておきたいですね。“生涯現役”を願う、これからの高齢者ニーズは、地域の中にこそ見いだせるかもしれません。