ケータイでご利用者さんの写真撮影そこに倫理観はある?
先日、「ある施設で職員が認知症入所者の裸の上半身や顔料で顔にペインティングした姿を携帯電話のカメラで撮影していた」というニュース記事を目にしました。詳しいいきさつはその記事からはわかりませんが、悪意からではなかったにせよ、特別な理由……たとえば身体の状態を主治医に知らせて緊急に判断を仰ぐ必要があるなど……もなく、ご利用者さんの写真を無断で撮ったり、ましてやご利用者さんが恥ずかしいと思うかもしれない写真を保存して他人に見せたりする行為は、介護職の職業倫理やご利用者さんのプライバシー保護の点からみてどうでしょう。プロとしても人間としても恥ずかしい行為ではないでしょうか。
そもそも介護の現場における携帯電話の扱いについて、施設や事業所ごとにきちんと内部規定を設けているのかどうかも気になるところです。
尊厳を大切にしているかは日ごろの言葉や態度に現れる
目の前の仕事に追われるうちについ忘れがちになるもの、それが倫理観です。実習に行った学生たちから「ご利用者さんを笑いのネタにして職員が内輪で盛り上がっていた」といった類の話を聞くことがあります。また先輩職員が友だち言葉でご利用者さんに接している様子に「おかしい」と思いつつ、口に出せないという新人の悩みも耳にします。介護の現場は第三者の目が入りにくい、在宅は特にそうです。だからこそ、自分たちが日ごろしていることを常に振り返ることが必要なのです。
実際、最近の調査からはヘルパーの対応・態度に不満を持っているご利用者さんが少なからずいることもわかっています。
ご利用者さんの「ありがとう」という言葉に満足し、そこに安住してしまっていてはいけないということではないでしょうか。
職業倫理の学びが専門性の向上には不可欠
私たち介護職の仕事には、ご利用者さんの代弁者としての役割が課せられています。ご利用者さんに不愉快な思いをさせていないか、尊厳を傷つける行為をしてはいないか、少しでもそう思ったら新人でも声を上げる、そういう力が必要です。自分のケアに不安を抱いている人も多いようですが、
迷いや不安を感じたら、日本介護福祉士会の倫理綱領を見てみましょう。一番に「すべての人々の基本的人権を擁護し(中略)、自立に向けた介護福祉サービスを提供していきます」と記されています。プライバシーの保護についても明記されています。この倫理綱領に立ち返れば、あるべきケアの方向性が見えてくると思います。
知識と技術は経験を積むことで身についていきます。でもそこに倫理が伴わなければ本当によい介護はできません。介護福祉士の新しい養成カリキュラム案では、「人間の尊厳と自立」という項目が新たに設けられ、養成校2年課程で30時間、実務経験ルートでも15時間を割くことになっています。転倒など事故防止に対しては事例の蓄積やマニュアル化が進んでいますが、人権擁護の部分ではそうした取り組みがまだまだ遅れています。ですので、最低でもこれだけの学びが必要だということです。
皆さんも事業所内で、また可能であれば地域でいくつかの事業所が集まる機会を設け、倫理や人権擁護の視点から事例検討をはじめてみてください。それが専門職としての「尊厳を支える介護」への着実な一歩になるはずです。