生き生きと働いている介護職の姿をもっと知ってほしい
前回は介護職の離職率、特に「1年未満」や「1年以上3年未満」で辞めてしまう人が多いことから、「若手職員の前に立ちはだかる”壁“って、いったい何だろう」ということについて考えてみました。その際に紹介した、介護職が現在の仕事・勤務先を選んだ理由についての調査結果を覚えていますか?そう、圧倒的に多かったのが「働きがいのある仕事だと思ったから」という回答です。
現に、私が教師を務める専門学校にも、「大変だけどすごくやりがいがある」「この仕事を選んでよかった」という卒業生たちからの手紙がたくさん届いています。短期間で辞めてしまう人もいるけれど、それ以上に多くの若者が、きびしさを抱えながらも介護の仕事にやりがいと魅力、将来性を感じている。そのことを、私自身がひしひしと感じています。
何年か前に、手紙が届きました。その女性は高校卒業後、一度は無資格で介護施設に就職しましたが、「将来のためにきちんと資格を取りたい」といったん退職して当校に入学。その後、介護福祉士の資格を取得して元の施設に再就職しました。以前は何の疑問を持たずに働いていた施設。でも2年間の勉強を経た彼女からの手紙には、こんなことが綴られていました。
――入職当初は、思っていた以上にひどい施設でした。利用者の安全のためという名目のもと、ミトンの使用はあたりまえ。つなぎ服の人もいました。排せつはおむつでよいという考え方で、便意を訴える人をトイレ誘導していたら、同僚から「そんなにトイレ誘導していたら、他の業務ができないでしょう」と言われました。先生から「再就職とはいえ新人なんだからまず3ヵ月くらいはじっくり現状を把握するようにしなさい」と言われていたことを思い出し、3ヵ月はじっと我慢。4ヵ月目の会議のときに、ミトンの廃止と自立を考えた排せつ介助の推進を提案しました。実は周囲にも同じ疑問を持っていた人がいて最近ようやくミトンを廃止し、トイレ誘導も可能になりました。ひとりではとてもできなかったことです。問題は多い施設でしたが、私には向いていたかも。だって「私が利用者を守らなければ」という気持ちでがんばれるから。いつかは母校の実習施設になれるくらいの施設にしていきたいです。(要旨・一部改変)――
新人・中堅・ベテランにそれぞれのやりがいと役目がある
彼女の場合は通算で3年目、中堅といってよいでしょう。中堅になると、リーダーとしてある程度職員を導いていける立場になります。介護のあるべき姿に対する理念と問題解決志向が強くあり、何より周囲を巻き込んでいく統率力があった。周囲の人が変わると、職場に活気が出る。これぞ中堅のやりがいです。
新人は周囲とのあつれきや、理想と現実のギャップに悩むことが多いでしょう。最初は利用者の笑顔や「ありがとう」の言葉に励まされる、それでいいと思います。けれど、そこに安住していてはダメ。介護はその人の生活の自立を支援していく仕事です。本当に利用者の望む生活を実現できているか、その人が心から喜んでいるか。そこに力を注ぎ、喜びを見出せるようになると、ぐんとやりがいが感じられるようになります。
一方ベテランは、スタッフをマネジメントし組織や現場を動かしていける立場になります。自分が理想としてきたことが、いよいよ形になってくる。責任は重大ですが、その分やりがいも大きくなります。ただし、特に在宅サービスの場合、今後ますます増える、老老介護、認認介護に対応するためには、ひとつの事業所だけでは対応できません。医療関係者や臨床心理士、司法関係者、地域のインフォーマルサービスなど、多くの人材・資源とネットワークをつくることが、最大の課題になります。
サ責やケアマネジャーもどんどん外に出て、地域や全国各地に人脈をつくることが大切です。そんな費用も時間もない?それでも「自分の身の肥やし」と思って自ら動く人を期待したいですね。
団塊の世代が「皆で童謡、演歌」に満足できるか
最後にもうひとつ。あと10年も経てば、団塊の世代にも要介護者が増えてくるでしょう。今の80歳代、90歳代をイメージした高齢者観はもう通用しなくなります。自分のしたいこと、したくないことをはっきり主張する世代。音楽ひとつとっても、デイサービスで「さあ皆で童謡、演歌を歌いましょう!」なんて言って、何人が楽しめますか?ビートルズに熱狂し、フォークソング全盛時代に生き、ジャズやクラシックにはまった世代ですよ。
逆に言えば、介護分野はまだまだ発展途上であり、これからどんどん変革していく、あらゆる可能性のあるジャンルといえます。旧来型のやり方ではじきに通用しなくなる。だからこそ、柔軟な頭と行動力で、若手の皆さんに新たな風を吹き込んでもらいたいと期待しています。