仕事と育児を両立するための環境整備が遅れている現状
最近、「ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)」という言葉が、盛んに使われるようになりました。少子高齢化が急激に進むなか、国全体としてこの問題に取り組んでいかなければ、という意識が高まってきたひとつの表れだと思います。
特に、若い世代の女性が多く活躍する介護の現場では「仕事と育児の両立」が、仕事を継続していくうえで大きなポイントになっているようです。厚労省の直近の調査によると、2007年に出産した女性の育児休業取得率は89・7%と過去最高の水準となりました(図1参照)。
ただ、介護の現場に限っていえば、育児休業の取得率はここまで上がっていないな、という実感があります。ひとつの目安として、介護労働者の離職の理由を調べた調査(介護労働安定センター『2007年度介護労働実態調査』の「前職を辞めた理由」)があります。これによると、「待遇に不満があった(賃金・労働時間)」に次いで「自分・家庭の事情(結婚・出産・転勤等)」が理由として多く(表1参照)、出産や育児を機に、介護の現場を離れる人が少なくないようです。
介護は心身ともに負担の大きな仕事です。そのうえ、記録や事務処理にかかる残業や、移動や待機、利用者のキャンセルに対する保障などもほとんどありません。こうした現状がわかっているだけに、本人が「育児休業を取りたい」「残業を免除してほしい」といった、当然の要求をしにくくなっていることが考えられます。また、介護の世界は新しい事業所も多いため、「前例がない」「他の人にしわ寄せがかかる」と、それこそ管理者や同僚が、育児休業などをデ”メリット“と捉えている側面もあるのではないでしょうか。
厚労省は先日、3歳未満の子を持つ従業員が希望した場合には、短時間勤務や残業免除を企業に義務付ける方針を打ち出しましたが、制度があることと、それが実際に活用できることの間にはまだまだ乖離があるのが現実です。
育児経験は本人にとっても事業所にとっても大きな糧になる
私自身、2人の子育てで6年間、専業主婦だった時代があります。現在も保育所の待機児童が大きな社会問題になっていますが、当時は今の比ではなく、子どもを預けられる場所を必死に探しましたが、結局あきらめざるを得ませんでした。
でも育児に専念する時間が取れたことで、家庭や地域で暮らすことがどういうことなのかという視点が持てるようになったことは、看護職場に復帰してからの大きな糧となりました。介護も同じではないでしょうか。それこそ、利用者の生活史を踏まえ自立を支援する介護の仕事ほど、育児経験がプラスにならない職種はないといってもいいかもしれません。出産・育児を機に離職することは、本人にとっても事業所にとっても、大きな損失だと思います。
仕事と育児を両立できるよう、事業所は短時間勤務などフレキシブルな働き方ができる環境整備を行い、仲間もそれをフォローしていく。こうした環境整備は、職員の定着率やモチベーションを向上させ、介護の質を上げることにつながります。質の高い事業所は、利用者に選ばれる。また業務の効率化によって利益率の向上も図られる。メリットのほうがはるかに大きいんです。今、事業所の種類や規模に関係なく、育児と仕事の両立を支援するさまざまな先進的な取り組みが行われています。そうしたモデルをどんどん真似することが必要ではないでしょうか(表2参照)。
ただ、職場を完全に離れていても、常に介護に関するアンテナを張り続けることは必要です。それは介護に必要な知識や技術が日進月歩で進歩し続けているからです。職場を離れている間も、常に仲間や職能団体とのネットワークを持ち続け、情報収集に努めることが大切です。ブランク期間が長い潜在介護福祉士のために、現場復帰を支援するための研修事業も始まっています。
「給料が安くて結婚できない」を言う前に、自分を見つめ直してみよう
今、「給料が安くて結婚できない」、そんな声も上がっていますね。確かに介護職に適正な対価をつけることは必要だと私も思っています。ただ、それを主張しているあなたは、介護職としての専門性を磨くための自己研鑽をどれくらいしていますか? 身銭を切ってでもキャリアアップのための自己投資をして、利用者や他の職員や管理者から認めてもらう努力をしていますか? 厳しいかもしれませんが、私はそれをまず問いたいと思います。
そもそも、男性も女性も、結婚したら家計について育児についても、パートナーと協力しながらやっていくのだと思います。お互いに、ひとりの人間としても働く人間としても自立したパートナーを選びましょうよ。「介護職は結婚できない」なんてことはありません。それが多くの卒業生をみてきた私の正直な感想です。