離職率が高い原因は決して「介護の仕事」がイヤになったからではない
高いといわれる介護職の離職率ですが、直近の※調査ではやや改善の兆しがみられます。介護人材の確保に向けた各方面による取り組みの成果が少しずつ現れているのかなと、人材育成に携わる一員としてうれしく思っています。勤続年数も上がる傾向がみえますが、それでも75%の人が3年未満で離職しているのが現状です。
ただ、離職者が多いのは、決して「介護という仕事がイヤになったから」ではないんですね。以前、この連載の中でも紹介したように、そもそも介護職が現在の仕事や勤務先を選択した理由は「働きがいのある仕事だと思ったから」が6割以上と圧倒的に高く、「今の仕事を働き続けられる限り続けたい」と考えている人が過半数にのぼっています(図1)。待遇は十分とはいえない、体力的にもきつい仕事。そんなことは百も承知で、「人の役に立つ仕事をしたい」「介護の仕事を通じて自分も成長したい」そんなふうに考えて、この世界を志す人が多いのです。その意味では、「合格したのでなんとなくこの会社に入りました」という一般の会社員より、はるかにモチベーションが高いといえるかもしれません。
ではなぜ、3年未満で7?8割の人が離職するのでしょうか。 ひと言で言うなら「理想と現実のギャップ」だと思います。介護福祉士養成施設の卒業生は、多かれ少なかれ就職してから「学校で学んだことと実際に行われていることが全然違う」という現実に直面します。流れ作業的な介護、業務をこなすだけの毎日、利用者一人ひとりに向き合えないジレンマ…学校であれほど学んだ「利用者主体の介護」はどこにあるんだろう。思いを言葉にすると「一人前でもないのに、まだまだやることがあるでしょう」と言われる。それが続けば当然、自分の心と体がどんどん疲弊していきます。
図1 今の仕事の継続意志

※ 介護労働安定センター「介護労働実態調査」(2009年度より)
同じ志を持つ仲間や目標にできる人を見つけることが、次のステップにつながる
ここがひとつの勝負どころです。「自分はこう思うのだけれど、間違っているのだろうか…」と話せる同僚、相談できる先輩が職場にいるのか、いないのか(図2)。もし、いないのであれば、自分から探しに行けばいい。目的意識を持って研修に行く。書籍や雑誌を読む。ネット上にも介護職同士のネットワークや、他の事業所の取り組みなど情報はたくさんあります。「どうせだめだ」と諦めたら先に進めませんし、自分の成長もありません。周囲が変わることを待つのではなく、自分から動き、働きかける。この辺は若手の介護職がまだまだ弱い部分です。あなたと同じような問題意識を持つ人や、自分が目標にしたいと思える人は必ずいます。そこを突破口に次のステップに進めばいいんです。
選択肢のひとつに「起業」もあると思います。自分が理想とするケアを実践できる事業所を自ら立ち上げる。介護保険制度ができたことで「こういう介護をしたい」という小さな志の芽が、仲間を呼び寄せ、地域を巻き込んで大きく成長した例は全国に数多くあります。そうした人たちの実践に学んでみてはどうでしょうか。

挫折してトラックの運転手に…でもやっぱり介護に戻り、起業したケースも
実際、当校の初期の卒業生の中に、こんな人がいます。
特養に就職したのですが、身体拘束が平然と行われているようなケアのあり方(介護保険施行前)に疑問を感じ、積極的に改善提案をしていく。ところが周囲に叩かれ、いつしか自己主張をしなくなり、やがて離職。トラックの運転手など紆余曲折を経て、「やはり自分の自己実現は介護の現場で!!」と、介護の世界に戻り、しかし施設には就職せず「在宅でしっかりと個別ケアをしたい」と訪問介護事業所を立ち上げたのです。
自分が育った地元にこだわり、地元のニーズに応えるサービスを手がけ、最近では小規模多機能型居宅介護事業所も開設しました。地元で暮らし、トラック運転手もしていたくらいですから、「アイツがやるならひと肌脱ごう」というサポーターがたくさんいる。これは大きな強みです。卒業から十年ちょっと経ち、やりたいことを模索し続けてきた結果、「やっぱり介護しかない!!」という強い思いが今、彼の中で爆発している感じがします(笑)。ブレない信念を持っていて、自分から行動を起こせば、それに共鳴する人は集まってくるものです。2~3年で諦めてしまうなんてもったいない。まさに「石の上にも三年」ですよ。
東京の下町に、(狭くて階段の昇り降りの多い住宅が多く、老老介護の多い場所・地域なのですが)男性4人で訪問介護事業所を立ち上げた卒業生もいます。訪問介護というと、ふつうは男性のほうが敬遠されがちですが、彼らはこういう地域だからこそ必要な男性パワーを事業所の魅力・個性にして地域に受け入れられています。また、介護保険外のサービスを積極的に行うことで事業展開している例もあります。団塊世代が高齢化するにつれ、利用者のニーズもどんどん変化します。ビジネスチャンス、将来性がこんなにある業界はないですよ。
「理想と違った」で終わらせない。「やりたいことが何でもできて、どんな経験やアイデアも活かすことのできる仕事」それが介護だ。私はそう思っています。
※介護労働安定センター調べによると、介護労働者の離職率は2010年10月~2011年9月が17.0%で、前年の18.7%、前々年度の21.6%を下回る結果になっている。