介護保険法は介護を要する者に介護保険制度を設け、その行う保険給付等に関して必要な事項を定めた法律です。その第1条(介護保険法の目的)には次のように書かれています。
【介護保険法】
第一章 総則
(目的)
第一条
この法律は、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため、国民の共同連帯の理念に基づき介護保険制度を設け、その行う保険給付等に関して必要な事項を定め、もって国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図ることを目的とする。
下線の「これらの者が尊厳を保持し」という文言は平成18年の法改正の際に付け加えられたもので、一連の介護保険法改正の根幹を示す考え方とも言えます。それでは何故この文言が加わったのでしょうか。
サービス提供責任者(サ責)の研修参加者に、この文言に対して気付いた事例を出し合ってもらったところ、以下のような介護側の善意や好意に基づく「軽視や無視」が多く提起されました。
【話し合いで出てきた回答】
◆認知機能が低下している利用者に接する際、本人そっちのけで介護者と語り合っていた。
◆親しい関係を築こうとするあまり、初対面にもかかわらず「お父さん、お母さん、飲んだ?」などと気安く声をかけていた。
◆何度も何度も電話をかけてくる利用者さんの電話に、つい顔がひきつって荒っぽく対応していた。
◆本人はゆっくりとお風呂に入りたいのに、その気持ちを確認せずに関係を築こうとして、一方的に話してしまった。
◆訪問が終了して帰るとき、利用者から「鍵をかけないでネ」と頼まれたのに、「玄関からすぐ出て行ってしまうので部屋に鍵をかけるように」と言う家族の言葉を尊重し、「もう少しで帰ってくるから」と利用者を言い含め、鍵をかけてしまった。
「○○さんのためにはこれがもっともいい」「こうしなくては」「これでうまくいく」等々。
いつの間にか利用者の気持ちを置き去りにしてしまっているのです。
介護現場では無意識のうちに利用者の主体性を軽視したり、無視したりすることがよくあります。利用者を大事に思い、大切に扱おうと努力しているのに、どうしてそのようなことが起きてしまうのでしょうか。
さて、皆さんのところではどうでしょうか。
このようなことはありませんか?
今回の法改正で付け加えられた「これらの者が尊厳を保持し」という文言の持つ意味をよく考え、自分の周りで起きている出来事を振り返ってみましょう。