報道でご存じの方も多いと思いますが、2015年9月24日の会見にて安倍首相は、親の介護などを理由に、長年勤めてきた仕事を辞めざるを得ない「介護離職者」たちをゼロにするための対応として、特別養護老人ホーム(特養)の増設を表明しました。
これまで、介護予防や認知症対策の取り組みといえば、施設よりも在宅(居宅)サービスの充実、また、以前にご紹介した「地域包括ケアシステム」の創設といった地域社会における住民の助け合いやボランティアの拡充が優先されてきたように思います。
地域社会における介護サービスの充実はもちろん必要でしょう。ですが、現在の日本においては政治的な意図もあって、サービスの種類によってはその充実の度合いに格差が生じているのも事実です。民間活力の導入による介護サービスの量的な拡大が図られてきた裏では、様々な問題も表面化してきました。
例えば、神奈川県川崎市の有料老人ホームにおいて3名の入居者が転落死した件に関して言えば、いまだ原因が究明されないままです。また、職員による虐待や入居者の財布からお金を抜き取るなどの窃盗事件も次々と明るみに出ています。他にも、飲食業界から介護サービス事業に進出した大手事業者が介護事業からの撤退を表明するなど、本年4月の介護報酬引き下げによって、事業経営が悪化し、介護事業者の倒産や撤退が増加してきています。
全国の特養入所者は、約54万人ですが、厚労省によると約52万人の入所希望があると言われています。施設の充実は大変結構なことですが、それと同時に、介護サービス事業者の経営安定化と従事者の質の確保、また、待遇の向上といった部分にも本腰を入れることが急務だと言えるのではないでしょうか。