近年、食品の偽装事件や官庁を舞台とした汚職事件が後を絶ちません。社会福祉関連でも、子どものいじめや高齢者の虐待事件、施設や病院の運営に対する不正事件、全国でも話題となった、いわゆる“コムスン”事件等々、社会福祉従事者の「倫理」や「価値」、「コンプライアンス(法令遵守)」が課題となっています。
とある施設内で起こった利用者に対する虐待の事例で、施設に配置された第三者の苦情受付・処理の制度が全く機能していないどころか、施設側の都合のよい擁護に使われていることが指摘されていました。また、大学等における学生の授業評価アンケートについても、その調査結果が授業の質の向上に役に立つ指摘なのかどうか、疑問視する意見があるのも事実です。
インターネットや携帯電話の普及による情報化社会の進展は、フェイス・トウ・フェイスという人間どうしの直接対峙を避けながら、匿名で自分自身の主張を通す傾向を生んでいます。そして、裏サイトにおける犯罪行為やメール送信による集団いじめは、本人の生きる価値をも失わせる結果になっています。
福祉の現場は対人援助技術の実践の場です。相手との意見の相違を恐れず、真摯に相手と向き合い、自分の意見を表明するのと同時に相手の主張をも尊重するという視点が大切だと思われます。このバランスが崩れると、過度な自己防衛に走るあまり、相手を傷つける結果を生むことになりかねません。
社会福祉従事者の倫理は、集約すれば「社会正義の確立」と「サービス利用者の権利擁護の実現」にあります。いくら知識や技術を積み重ねていっても、土台となるこの意識がぐらついていると、本来のソーシャルワークの実践にはならないのです。