ご存じの方も多いと思いますが、先日JR西日本の特急電車の車内である女性が男性により乱暴されるのを、同じ車内にいた約40人もの乗客が見て見ぬふりをしたというニュースがありました。誰一人犯人を止めることも、車掌に連絡することもなく、関わり合いを避けるという風潮。大学で地域福祉やコミュニティワークを教えている私にとって、それはショッキングなニュースでした。一体、人と人との繋がりとは何なのでしょう。そして、ごくあたりまえの正義や倫理とは何なのでしょうか。これに続いて、介護保険事業所の不正や食肉偽装などの報道が続いています。
介護や福祉サービスの現場では、予期せぬ事故が起こったり、思わぬ苦情が寄せられたりします。高齢者施設や在宅で起こる虐待事件、成年後見制度を悪用した不動産詐欺事件、医療保険や介護保険に関する不正請求などは増加傾向にあります。また、世の中で個人情報の保護やプライバシーの確保が叫ばれる一方で、インターネットをはじめとするメディアで無秩序に情報が大量流出しているのも事実です。日常の福祉サービスの提供現場は、当然のことながらフェイス・トウ・フェイスの対人関係が基本です。本人との関係はもちろんのこと、家族など周囲の人間関係も重要です。
社会福祉基礎構造改革と介護保険法、障害者自立支援法。そんな福祉現場に急激に持ち込まれた民間活力の活用と市場原理、効率化と経営の視点の強化。ワーキング・プアと呼ばれる仕事量の割に報われない報酬など、量、質ともに要求される人材の確保は、介護現場では様々な問題を生じさせてきました。
経営側は経費の節減と顧客の拡大を謳い、従事者は限られた待遇の中でより質の高いサービスを求められ、利用者や家族は当然のように自分の要求を通そうとします。目先の利益を追求するあまり、人間関係本来の「信頼」を軽視してきたサービスは、どこかに綻びが生じてきます。そんなゆとりのない人間関係の板挟みになり、ストレスを背負い込み、職を離れる人も少なくはありません。
そこで、原点復帰です。私たちは、利用者本位のサービス提供をする仕事に関わっているという自覚を再確認しなくてはなりません。何よりも利用者の立場に立った視点から問題を整理し、利用者との信頼関係を第一に職場の問題点を再考する機会がぜひとも必要です。
施設のオンブズマン活動をしていた経験から言えることは、日常から職員と利用者、家族が遠慮せずに何でも意見を出し合え、信頼関係が確立している現場では、たとえ事故が起こっても、大きな問題には発展しないことです。日頃からみんなで助けあって、信頼しあえる相互関係。医療や福祉の現場ではこれが基本です。