(4) このままのじゃ、介護の世界は“もったいない”!

>▲「寒くなってきましたね」施設入所者の方とお話する戸館さん。
―点滴ですか!
戸館さん:具合が悪いなぁと思うと、急性胃腸炎になっていたりするんです。これじゃダメなんですけれどね。もっともっと出来るところは職場環境も改善していかなくちゃって思います。
―つくづく大変なお仕事ですね。
戸館さん:大きい話をすれば、福祉や介護の世界全体がそうなんだと思います。全国的にね。何とかしていかなくちゃ、改善していかなくちゃ、離職率も高いままで減らないでしょうね。いろいろなことが重なって、たまたま私が仕事を続けていられるだけの話で、ともすれば仕事を続けていくことすらも難しい条件が介護業界にはいっぱい揃っているんです。ボランティアでは介護や福祉はやっていけません。それは当然のことなんですけれどね。
―確かにそうですね。
戸館さん:でも、世の中全体が福祉や介護に対してボランティアを求めていますよね。全てがそうだとは言いませんが、そういう感覚と見方をしていると思います。でも、それはとてももったいないことです。
―もったいない、ですか?
戸館さん:はい、もったいないと思いますね。この人がこの業界に入ってくれたらな、現場で働いてくれたら道がひらけるだろうな、どれだけ心強いだろうなって思う優秀な人材がなかなかこの業界に残れないし、入ってこられないんですよ。
東北では、時給に換算すると600円台からのスタートで、主任クラスでも一般企業の初任給くらいしかもらえません。必死に働いても、です。だから、本当は現場に残りたくても、家庭の事情で仕方がなくやめていく人も少なくありません。とても単純な話で、経済面で余裕がない、生活していけないという状態では仕事を続けられないんです。このままの状態が続けば、誰もなり手がなくなってしまいます。
▲やさしい笑顔が印象的。
―時給換算だと、そんなに安くなってしまうんですか!
戸館さん:本当に安いでしょう?お金がすべてではないけれど、評価はそれなりに必要です。社会的な評価、報酬的な評価はやっぱり大切だと思います。私の場合は家族や家庭に甘えられる環境もあります。けれど、それがない人にとってはどうにもならない現実がそこにはあるんですよ。ましてやそれが一家の大黒柱だったとしたら、将来が不安になって転職を考えるのはごく当たり前のことです。医療と福祉の格差がありすぎるという事実も問題です。看護士さんが高収入という話は聞いたことがありますが、介護士が高収入だという話は聞いたことがないでしょう?
―そう言われればそうですね。
戸館さん:ヘルパーは医療的、専門的な知識を身に付けておかなくてはできない仕事です。しかし、このままではヘルパーの社会的な価値観も下がってきて、主婦ができればできるとおもわれてしまう気がします。そうなってしまうと、自分より何倍も生きている方々の支援をすることの意味を模索することすらも間違って捉えられてしまいます。そして、真剣にその意味を模索しようとする人たちは、どこかで息詰まって職を離れてしまう。別の道を歩くことになってしまう環境があるんですよね。
男性の方が奥さんと子供さん何人か、親御さんを養っていけるような環境になってほしいと切に願いますね。そうじゃないから、多分、男性の職員比率も低いんじゃないかと思います
―その「もったいない」がなくなるために、今後何をすべきだと思いますか?
戸館さん:まず、見合った報酬がつくべきでしょうね。そして、本当の意味で現場の声を聞いて欲しい。何がうまくいっていないのかをちゃんと国に知って頂いて、法改正の参考にして欲しいと思いますね。
たとえば、私たちサービス提供責任者には、法的に訪問介護計画書を作らなきゃならないという責務があります。訪問介護計画書は全国平均で1ケースあたり90分かかると言われていますが、これには時給も給料も何も、報酬自体が発生しません。それが何ケースもあるんです。その時間はすべて、ボランティアと変わらないんです。これが月に1ケースくらいならまだいいとしても、そんなわけがない。訪問介護計画書は利用者さまの数だけ必要ですから、仕事は増える一方です。だからそれをどんどん処理しなきゃいけない。けれどそれに徹したら、今度は他の業務ができなくなって現場にしわ寄せがいってしまいます。
もちろん、私たちサービス提供責任者の仕事はそれだけではありません。訪問介護計画書の作成以外にもヘルパーの指導や新規契約調整などがあります。到底、サービス提供責任者だけで何とかできる仕事じゃないんです。1人当たりに課せられている責務があまりにも大きすぎます。労働基準法を守るのか、介護保険法を守るのか、照らし合わせればすぐに分かる話だと思います。国に、「一体、どっちを守れっていうわけ?」って言いたいですよね。
▲「利用者や入居者の皆さんと関わる楽しさや、本当の意味を知って欲しい」と戸館さん。
―法律が変われば、みんなが戻ってくると思いますか?
戸館さん:そう思います。やりがいを感じられる職場になるでしょうし、現場スタッフみんなにここで働けてよかったなって本当に思ってもらえるようになると思います。透明性を持たせた法律と報酬制度で、職員がプライドを持てるような環境になればいいなって思います。