――まずは重度訪問介護のケアの内容と訪問介護との働き方の違いについてお話しください。
訪問介護は介護保険制度、重度訪問介護は障害福祉制度と適用される制度がまず違います。また、現場で働くヘルパーの働き方もだいぶ異なります。重度訪問介護の場合、24時間対応が必要な方に、1日3交代で対応するケースがほとんどで、1回の訪問時間が長くなり、一人のヘルパーが現場にずっと滞在するかたちです。週に短時間のサービスを複数回提供することが多い訪問介護とは基本部分で違っています。
また、重度訪問介護の現場では、かなり密度の濃いコミュニケーションが求められるので、感情労働的な側面が非常に強く、重い仕事と感じる人もいるでしょう。離職率は訪問介護よりさらに高く、仕事に就いても適応できない人が多いのが現状です。
――利用者の方へのケアの難しさが関係していますか。
それも一つの要因ですが、やはり感情労働の部分が最も大きく影響していると思われます。
――サービス提供責任者は重責なのですか?
訪問介護ですと、シフトの調整や介護サービスをマネジメントする面での負荷が結構あると思うのですが、重度訪問介護の場合、シフトの調整という点では、そんなに苦労はありません。むしろ利用者さんとヘルパーとの間で生じた感情の軋轢や葛藤などに対して、その都度コミットしていく必要があり、そちらの対応のほうに時間を取られます。
また、24時間対応であることから、仕事の切れ目をつくりにくく、いつでも対応できるように常時スイッチをオンにしておかなければならないキツさもあるかもしれません。
――離職率の高い仕事ですが、いったん魅力を感じると続ける方が多いとも聞きます。
弊社では、利用者さんの30%以上がALSの方であったり、半数以上が医療的ケアを必要とされる方です。その方たちの「生命を支えている」社会的意味を実感できる点が魅力であり、やりがいにつながっているのではないでしょうか。
――人材の定着について、特に工夫されている点はありますか?
まずは採用時が大切です。ヘルパーになろうと応募してきた方の志望動機をよく見極め、「ミッション・ヴィジョン・ヴァリュー」という弊社が目指そうとしている理念をしっかり伝えることで、互いの合意形成を行います。
教育面では、幸いにも障害当事者運動のリーダーであった安積遊歩さんをはじめ、介護福祉業界のリーダーの方々がさまざまなかたちでかかわってくださっていますので、講師をお願いして、初期段階で目線を合わせられるような、教育の機会を設けています。
そうやって価値観をすり合わせたうえで、重度訪問介護従業者養成研修を弊社の教育機関で受けてもらいます。重度訪問介護のヘルパーの資格は20時間(トータル3日間)で取得できますが、それだけでは不十分なので、独自にフォローアップ研修も行います。
いざ現場に入る段になると、ケアの難易度が高い利用者さんの場合、100時間前後の同行研修が必要とされますので、ベテランのヘルパーが同行して10日間ほどOJTを綿密に実施します。この教育・研修の過程をていねいに行うことで、しっかりと利用者さんに向き合っていく姿勢をつくり、仕事に対して違和感を覚えないように馴染んでもらいます。
――その後のキャリアアップについても「見える化」されているんですね。
なかには現場の仕事を一生続けたいという人もいますが、ヘルパー一筋では物足りないという人もいます。会社としては一人ひとりの「未来」が見えるように具体的に示していくことが大切だと思っています。
キャリアアップが実現したら、次にはこんな仕事ができる、あんな仕事もできるといったように、キャリアを体系化することで、仕事を長く続けてもらいたい。そのための取り組みです。サ責(コーディネーター)、管理者(オフィスマネージャー)、さらにエリアマネージャー、ブロックマネージャーとキャリアを積み重ねていけます。また労働環境改善の面では、福利厚生の充実や、現場でのハラスメント対策にもしっかりと注力しています。
――ジェンダー平等についても、取り組んでいらっしゃる?
会社を立ち上げてすぐにSDGsに取り組みました。その一環にジェンダー平等があります。現在弊社の男女比は、女性60%に対して男性が40%、キャリアが上がるにつれて男女比が逆転して役員クラスでは60%が男性、40%が女性となっています。弊社ではジェンダーイクオリティ委員会を設けて女性管理職の増員、女性経営陣の育成・増員を目指し、全キャリアにおける比率を男女半々にすることを目標に掲げています。
――47都道府県すべてに事業所を拡大されたいとおっしゃっていますが、その理由についてお聞かせください。
全国展開したいと思った理由は、我々のように重度訪問介護を提供できる事業所が、全国的に見て極めて少ないからです。サービスを受けたいという利用者さんがたくさんいるにもかかわらず、受けられない状況が依然としてある。
必要なケアにアクセスできないことが、大きな社会課題として捉えられていない状況を改善するにはどうしたらよいか、ずっと考え続けてきた結果です。一般に、重度訪問介護事業所の経営は小規模事業所ではなかなか収益化が難しく、弊社のようにある程度の規模感と経営体力が必要になると言われています。
これ以上介護難民を増やさないためにも、必要なケアが受けられる事業所を、継続して増やしていくように努めていきたいと考えています。