――徳田さんがNHKのディレクターを辞めてNPO法人認知症フレンドシップクラブを立ち上げられたきっかけは何ですか?
NHKでは、医療と介護について、ずっと取材を続けてきました。認知症や高齢者の問題について、地域づくりが大事だと自治会などが頑張ってもその一部は解決するけど、大半は解決しないことに気づいたのです。それを自分が具体的に解決できるとは思っていないんですが、糸口を見出したり、課題を考えていく人の頭数を増やしたり、多様性をもっと求めていきたいと思ったのが大きな動機です。
――特に、身近に認知症の人がいるとというわけではないんですね。
はい。実際に介護を経験され、意識を強くもっていらっしゃる方が「これはおかしい」「改善しなければならない」と、想いをかたちにされることも大事だと思いますが、認知症フレンドリー社会を考えるにあたって、全体の方向性を考えるきっかけづくりや、バランスを取る役割の人間も必要かと思いまして。俯瞰的立場で見ることを仕事にしてきた自分が向いていると思いました。
――最近ではダイバーシティという言葉もよく聞かれるようになりました。認知症の問題を考えることが、障がいのある方や別の困っている方たちの課題解決にもつながっていくんですね?
地域や社会をつくっていこうとしたときに、多くの方は比較的ほかのだれかがつくってくれるというふうに思っていて、自分ごととして、そこに寄与できると感じている人は意外と少ない。ですから、実際にだれかが行動して、入り口みたいなものを提示していかないとうまくいかない気がします。たまたま認知症フレンドシップクラブの場合は、入り口が認知症だったというわけです。
ほかにも入り口はあって、障がいかもしれないし、外国人やLGBTかもしれない。どこからでも入ってみると、結局、私たちの地域や社会がどんなふうに成り立ち、どこが変わらなければいけないかを考えるようになる。結局ゴールは一緒だと感じています。
ただ、認知症の方の場合は、困っている当事者の方が、それをうまく言語化して、発信しにくい現状があります。そこの難しさがありますね。
――著作を拝見して、徳田さんたちの活動は、医療・福祉や行政だけでなく、いろいろなジャンルの社会資源と結びついて、課題に取り組んでいらっしゃる姿が印象的でした。
活動を始めて、当事者の方やご家族に、困っていることは何か、やりたいけど実現できないことは何かをお聞きしていくうちに、実は治療や薬をどうするかではなくて、もっと生活に密着した話であることに気づいたんです。たとえば、スポーツクラブに通いたいとか、買い物に本当は一人で行って、何の気兼ねもなくウインドーショッピングをゆっくりしたいだとか……ごくごく日常の生活を送りたいのに、障がいになっていることがあってできない、それって福祉制度とか行政が解決するというよりも、スポーツクラブやデパートで、ちょっとした配慮と工夫があれば実現できそうだとわかった。
――具体的にはどういうことですか。
オペレーションの問題です。休憩する場所をどうしたらいいか、従業員の方たちにサポートするための講習を開いたらどうか、とかそれぐらいのすぐできそうな話なんです。そんなに難しいことではありません。
何かを解決しようとするときに、解決できる立場とできない立場の人がいて、認知症の問題は、解決できない立場の、ほぼ関係ない人が考えているので状況はあまり進まない。むしろ、生活を構成するさまざまな場面に関わっている企業や団体が、自分たちの業態の範囲内で課題を捉えて、解決策を見出していく方向性のほうが実現性と効果が高い気がしています。
医療と福祉以外の人たちに何ができるのか、どういうふうに変われるのか、といった点も挑戦でした。
――10年間活動されてきて、発足当時に比べて社会が変わってきたなと感じられる点はありますか。
そうですね、以前ですと認知症の人が買い物するんですか? という雰囲気で、スーパーやコンビニに行けなかったのですが、今ではレジで支払うことが難しいとか、そういうときでも、「まあそういうこともあるよね」「うちではこう対応しています」みたいに関心をもってくださるようになりました。
でもまだまだそういうお店は多くないので、店の設計やしくみ、接客のマニュアルなどを改善していく必要があります。認知症バリアフリーのような考え方も、国を中心に推進していく方向性が見えてきています。
――これからは、社会や生活の設計をする際に、認知症の人の困りごと、のような視点がもっともっと入っていくといいですね。
「認知症用の●●」みたいなことよりも、ふつうに使っているもの・場所・事がちょっと変わることで、街全体の機能が変わってくるという方向性がフィットするのではないでしょうか。もともとしてきた生活をどう継続するかについて、何か工夫やしくみを変えていくことが全体的にもよいのではないかと。そういったときに、あらゆるジャンルの方とつながって、それぞれの人たちが進みやすいようなステップを設計するのが僕の役割だと感じています。具体的には認知症フレンドリー社会をつくるためのガイドラインづくりを実現していきたいと考えています。