大学時代に体験した介護職がきっかけ
コントのような日常が自分には新鮮で興味深く、面白いと感じられました。
『介護支援サービス“どんぐり”』の正面。ガラス張りの扉でオープンな印象。
―田口さんは、大学で専攻されていた学科が「医療福祉マネジメント学科」とお聞きしましたが?
はい。関西の大学で、経営学部でありながら、社会福祉士の資格が取得できるという学科でした。大学の狙いとしては、今後、医療経営が伸びるだろうから、一般企業の就職とは別に、病院の経営に関わる人材輩出も、といった感じだったと思います。自分は、特に福祉に興味があってその学科を選んだわけではなくて。高校の推薦で進学したので、正直選べる範囲内から…という感じですね。
事業所左横には、『介護相談と調剤のしいの木薬局』が。どちらも同じ会社が運営している。
―ではその大学に入ったことで介護に興味を持たれたのですか?
そうですね。自分は高校時代に勉強をあまりしてこなかった後悔から、大学時代は誰よりも意欲的に勉強に取り組む学生だったんです。だから就活も大学2年の時に始めるという変わり者で(笑)。その活動中、ある就活フォーラムのブースで企業の方から「あなたは福祉系の大学にいるのに、なぜ福祉に進まないの?」と質問されたんです。その企業は福祉系ではなかったので、単純に「なぜ?」と聞かれたわけですが、全く答えられない自分がいて「これはやばいぞ」と。まずは明確な回答ができるためにも、実際に福祉の現場で働いてみないと、と思ったんですよね。で、老人ホームでのバイトを始めました。
事業所前は車椅子もスイスイ通れる広い歩道が続く。
―老人ホームで初めて福祉の現場に携わり、どんな印象を持ちましたか?
単純に面白いと思いました。例えば、おばあちゃんだと思って話しかけた方がおじいちゃんだったり。歩行介助しながらトイレまで一緒に行ったら、その間パンツが徐々に下がって、トイレについた途端、パンツが全部脱げたり。入浴介助では、お風呂にご利用者さんと一緒に職員が入るのですが、「田口くん、そこ、便が浮いているから気を付けて」って。本当にぷかぷか浮いているんですよ(苦笑)。不謹慎ながら、コントのような日常が自分には新鮮で興味深く、面白いと感じられました。だから人が嫌がる仕事も率先してやったりしていましたね。
自然豊かな秦野市。事業所近くには小さな畑も。
―その経験を通して、真剣に介護の方面に進もうと?
そうですね。本気でその道に行こうと決意したのはもう少し先ですけれど、そこでの経験がきっかけの一つではあります。あとは、自分なりに働きながら感じた介護の矛盾点をもっと突き詰めてみたくなり、そこからは、大学での勉強も一般から福祉系にシフトしていきました。
田口さんのデスク。持ち運びもできるノートPCを愛用中。
―矛盾とは?
老人ホームで働き始める時、「ここはご利用者さんの家なので、何号室ではなく●丁目の●番と呼ぶんですよ」という解説がありました。でもご利用者さんの体調が悪化したり、胃ろうの常設が必要になると、退所させられるのを見て、そこをご利用者さんが住む家と捉えているのに、その対応は違うんじゃないか、と。
作業や電話対応に勤しむ一方で、和気あいあいとした雰囲気のケアマネージャーさん達。奥の中央には第16回目で紹介した坂本輝美さんの姿が(自宅の近くに転職したそうで、何という偶然…)。
―なるほど。そうした矛盾と向き合いながら、より福祉の勉強に力を入れていったわけですね。そのまま福祉系で就活を?
いや、途中、看護学校に進学することを検討していた時期もあります。というのも、福祉について勉強すればするほど、誰でも出来る仕事なんじゃないかと、興味が薄れてきてしまって…。今はもちろん「誰でもできる仕事だからこそ魅力がある」と思っていますが、当時は薄っぺらく勉強したので、そう思ってしまったんですよね。あと、個人的に『看取り』にこだわっていたので、それってやっぱり医療の分野なのでは?という風にも感じて、ですね。
―看取りにこだわっていたのは、なぜですか?
老人ホームで仲良くさせてもらったおばあちゃんがいて、その方と最後まで一緒にいたいな、と考えた時に「看取り」が、当然のごとくセットに思えたんです。また当時、湯河原の老人ホームに自分の祖母が入所していて、将来出来ることなら、自分が引き取って介護できればいいな、という想いがどこかにあったからですかね。
―でも結果、看護学校には行かずに福祉の仕事に就かれたんですよね?それはどういう経緯で?
看護学校への進学は本気で考えていました。なので、試験合格のための勉強を日々しながら、入学金をバイトで貯めて…と。でもある看護学校のオープンキャンパスで出会った先生にこう言われました。「あなたは人を看取りたいと思っているのよね? 私は医者をしていた時期もあるし、看護師でもあるけれど、福祉ほど人を看取る仕事はないんじゃないかな、って思うのよ」って。医療業界にいた方が、看取りは福祉でもできる、とおっしゃったその言葉に衝撃と感動を覚えて、「あれ?自分が目指していた方面は間違っていたのか?」って(苦笑)。そこからです。やっぱり福祉に関わりたいなと改めて思うようになり、その後、紆余曲折色々ありつつ、湘南老人ホームに就職しました。