訪問介護事業所の立ち上げ
今までの対応とは異なる部分も多かったので慣れるまで苦労しました。
目を怪我された調理師の方に「大丈夫ですか?」と小笠原さん。
今日のおやつは手作りクッキー。人気はおまんじゅうなどのあんこ系だそう。
―病院の後に勤められたのがここ、『養護老人ホームすえなが』ですよね。最初から訪問介護事業所に?
入社当初は訪問介護事業所というサービスはここ『すえなが』にはなくて、特養、デイサービス、ケアハウス、養護の4軸でした。そのため最初は養護老人ホーム配属でした。その後、H19年に介護保険が養護で適用可能になったのを契機に、養護老人ホーム内で訪問介護事業所を立ち上げるという話しが持ち上がりまして。そして実際に立ち上げてもう7年が経ちます。そのため、実質同じ部署に11年間もいる形に。職員のなかには、養護と訪問を兼任している人もいますが、私は訪問だけです。
ご利用者さんとの会話で思わず大笑い!
ご利用者さんがどうしたいかを瞬時に察知してすぐに行動にうつす。
―それはまた長い年月同じ所で働かれているのですね。施設内に訪問介護事業所を立ち上げたことで、仕事にも大きな変化などありましたか?
もちろんありました。訪問介護となると色々細かくなります。『この時間でケアに入れるのが何人』と決まってしまうので、できることに限りが出てしまう。養護であれば、食事・お風呂介助と大雑把に時間配分し、余裕を持って対応できていたことも、介護保険を使うとなるとそうもいかない。今までと勝手が違う部分も多く、職員内には当初動揺が走りました。例えば、掃除であれば、うちは全室個室なのですが、今までご利用者さんどうこうは関係なく、気になる場所があれば徹底的に職員がキレイにしていました。ところが、訪問介護となると同じ施設内とはいえ、1件1件お宅に訪問するのと同じ。気になったからといって勝手にご利用者さんの棚を整理するわけにもいきません。そうした今までとは違う対応をしていくことに皆戸惑いがあって。だからまずは1人ずつにきちんと仕組みを説明して理解してもらって、という感じからでしたね。
食堂内に飾られた鬼のお面は、施設内のアクテビティでご利用者さんが作成したもの。
―ということは、立ち上げの段階から小笠原さんが他の職員を引っ張る立場にいらっしゃったのですか?
はい。そのタイミングでサ責兼管理者になりました。私も含め、当初働いていた職員は皆施設経験者ばかり。訪問経験ゼロだから尚更、意識を変えていくのは難しかったですよね。施設内にいるケアマネさんから話しを聞いたり、訪問介護の経験をされたことのあるパートさんから話しを聞いたりしながら土台を作りました。
廊下に飾られた国会議事堂の模型。こちらもご利用者さん作。
―なるほど、そうだったのですね。ちなみに外部に出ず、施設内だけの訪問というのも珍しいような気もします。同じ施設内だからこその悩みって何かありますか?
うちの施設は、介護度のついている人が介護保険を使って訪問介護を受けられます。ところが介護度がついていなくてもお手伝いが必要な方って沢山いらっしゃるわけで。私達としては、皆平等に困っている方や手助けを必要としているご利用者さんには対応していきたい気持ちがあり、できる限り対応しているのですが、そうするとご利用者さんのなかには「あの人はなんで介護保険がついていないのに手伝ってもらっているの?」と思われる方もいらっしゃるんですよ。確かに介護保険を使っている方には腑に落ちないかもしれませんよね。そうしたご利用者さん同士のトラブルが多いのも、居住が同じ施設内だからこそ、かもしれません。逆に介護度がついていない方とは関わり合う時間が減るなかで、寂しい思いをされてはいないだろうか…と考えたり。そうした、もどかしい気持ちがずっとあります。
食堂から見える外の景色。四季の変化が楽しめる。この時期は桜も。
―手伝うレベルもご利用者さん一人ひとり違いますものね。
そうなんです!もう本当に元気な人は毎日スタスタ、散歩に行かれたり。片や寝たきりの方や精神疾患の方も多くて。そういう意味で間口が広く、自立のレベルの差が激しい施設なだけに、余計に、ですよね。ご利用者さんに対してどこまで対応していくのか、というのは今後の課題でもあります。