■みんな何かしら背負っている、そんなご家族の立場がよく分かります。
▲床の雑巾がけを行う。朝は廊下を雑巾がけしたという。「雑巾がけって心が洗われるようで気持ちいいんですよ~」
―森川さんが介護を始められたキッカケを教えていただけますか?
森川さん:13年ほど前になりますが、病で倒れた義父の介護をするようになり、その際にお世話になった施設の方の温かさや優しさに触れて、私もそうありたい、と憧れたことがキッカケですね。デイサービスに来られていた利用者さんで何やら落ち着かない様子の方がいらっしゃったんです。その方が失禁されていると気づいたスタッフの方は、ご本人の気持ちを気遣って、さり気なく車椅子に乗せて移動していました。そのやりとりを見て、スタッフさんのチームワークの良さや思いやりに、とても感動しましたね。
義父の介護が落ち着いた頃に私も働かせていただいて、1年ほど務めた間にはヘルパーの資格も取得しました。
▲趣味の絵画は、秋になると始めるのだとか。「落ち葉の色は、いろんな色が出てくるので好きなんですよね」と森川さん。
―それから現在の職場で働き出すまでには、ずいぶんとブランクがあるようですが。
森川さん:実は、義父が亡くなった後、立て続けに実父と実母、主人が亡くなったので、家族の介護をするだけで精いっぱい、仕事をする余裕はなかったんですね。そろそろ仕事を……と思い始めた頃に、1年務めていた職場からもお声をかけていただいたのですが、一度に家族を失った悲しみから、どうしても自分がいい笑顔で利用者さんに接することができないと思い、復帰はとどまりました。立ち直るまでには時間が必要でしたので、たまにボランティア程度で関わらせていただくことにしたんです。
―もう一度介護職に就こうと思ったのはどうしてですか?
森川さん:当時、スーパーでパートをしていましたが、いつまでも気持ちが沈んでいるままではいけないと少しずつ思い始めたからです。そして、そろそろ復帰できそうと思っていた時に、ちょうど友人から誘っていただけました。いまの会社は夜勤もありましたし、徐々にサービス提供責任者としての書類をまとめる作業などが増え、覚えることもたくさんあったので、仕事をしたくて仕方がなかった当時の私にはちょうどよかったんだと思います。無心になって仕事に打ち込めたおかげで、どんなに大変な作業にも必死になって取り組めましたから。それに利用者さんを癒しているつもりが触れ合うことで癒されていたのは、もしかしたら私のほうだったのかもしれません。
▲過去に漫画家を志していたというイラストの技術も、現在は利用者さんのバースデーカードに活かされている。
まだまだ自分の人生を歩いていかなければという気持ちに立ち直るまでには、7年ほどの歳月がかかりましたけど、自分が介護をする家族の立場を経験したことで、利用者さんのご家族側の気持ちにも立って考えられるのは私の財産だと思っています。皆さん、辛いことがあったとしても口に出さないだけでね、何かしら背負っていらっしゃる、そんなふうに思うんです。 環境に恵まれたこと、辛いとき子どもたちが支えてくれたことには、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。だから、今の私は幸せ者だと心から思えますね。素晴らしい人に囲まれているから、私は前向きに挑戦していく気持ちにもなれるんだと思っています。
―森川さんが今後挑戦したいことは何でしょう?
森川さん:まずは介護福祉士の試験に合格することです。そして、1人だからこそ自由に動ける時間というのもありますし、私の人生まだまだこれから。常にチャレンジ精神を忘れずにいたいですね。
■編集後記
▲ヘルパーステーション桑林のスタッフの皆さん。
「今日はよろしくおねがいします!」そういって取材をスタートさせようとした記者に対して、気がまえた様子もなく対応してくださった今回の森川さん。
「高齢者への思いやりとは、ありのままを受け止めること」
そう語っていた言葉のまま、取材に対しても普段どおりで受けてくださいました。
同僚の看護師さんに森川さんについて伺うと、「本当にいい人。利用者さんからの信頼がとても厚い方なんです」と熱く語ってくださいました。掃除をする森川さんは
「利用者さんのお部屋の床は、モップではなく手で磨くようにしています。利用者さんが住まわれているお部屋ですし、モップより手のほうが隅々まできれいに拭けるんですよ」
掃除をしながら語るその姿にこそ、信頼が表れているようでした。
今回の取材にご協力いただいた、「アシステッドリビング荒川沖」スタッフの皆さま及び利用者さまには、心からお礼を申し上げます。ありがとうございました。
「へるぱ!」運営委員会一同