■高齢者住宅のよさは、家族のような雰囲気の中で生活できること。
▲介護で担当ではない利用者さんでも施設内ですれ違えば、声をかけて目配りをする。
―「アシステッドリビング荒川沖」に入居されている方について詳しく教えてください。
森川さん:ここの高齢者住宅には60代~90代の方までいらっしゃいます。全員で65名ほど入居されていて、そのうちの半数の方に訪問介護のサービスをさせていただいております。
―ケアの内容はどういったものになるのですか?
森川さん:入居者さんのお部屋の掃除や洗濯などの生活介護や、入浴介助、オムツ交換などの身体介護です。介護度の軽い方が多いので業務的には楽そうに見えますけれど、実際はそうでもないんですよ。 あと入居者さんのケア以外に在宅の訪問介護も行っているので、関わり方での違いを感じることがあります。
▲つかの間のランチタイムは、スタッフみんなで。各自が担当している利用者さんの状態について情報交換も行う。
―違いというのは?
森川さん:外部の利用者さんも高齢者住宅内の利用者さんも時間でサービスが区切られている点は一緒ですが、ケアの時にしか関わらないという意味でいえば、外部の方との関係にはメリハリがありますね。住宅内の利用者さんの場合は、常に一緒に居るので、家族のような雰囲気で接する関係にあります。それぞれのいい面と今後改善したほうがいい面の両方を見られると客観視ができるため、サービスの向上にもつながっています。
▲デイサービスの施設内に飾られていた凧。森川さんが下絵を描き、利用者さんがちぎり絵で仕上げた共同作品だ。
―高齢者住宅の利用者さんといつも一緒にいると、様子が手に取るように分かりそうですね。
森川さん:そうですね。特に人間関係というのは、よく見えるところかもしれません。定期的にご家族がお見えになる入居者さんは決まっていて、毎週末おうちに戻ってご家族とご飯を食べたり連休には旅行に出かけたりしています。 逆に身寄りのない方には、家族のような温かさが大切です。お一人で過ごされるのが好きな方でも、やはり人の気配や話し声が聞こえると安心されるようです。入居者さん同士の触れ合いが刺激になって、元気を取り戻される方もいらっしゃいますし。入居者さんがどんなことを思っているのか、理解するまでには色々と考えますけど、過ごしやすい環境を常に整えておきたいですね。
■利用者さんには気持ちよく過ごしてほしい、だから私は鏡を見ます。
▲生活介護で男性利用者さんのケアに入る森川さん。コミュニケーションしながら利用者さんの様子や気分も見ている。
―森川さんがケアの際に心がけていることはありますか?
森川さん:いくつかあるんですけど、まずは挨拶ですね。挨拶をしながら利用者さんの顔色や気分、様子を見るようにしています。挨拶を聞き取りにくい耳の遠い利用者さんでも、声をかけられると気持ちよさそうにしているんですよ。そして心がけというよりは口癖でついつい出てしまのが「ありがとう」の言葉です。もしかしたら私が「ありがとう」を頻繁に使うからなのかもしれませんが、よく利用者さんも「ありがとう」を言ってくださるんですね。ケアが終わって部屋を出ようとしたときに、あまり声の出ない利用者さんが、やっと聞こえるくらいに微かな声をふり絞って「ありがとう」と言ってくださったときには、言葉にならない想いが胸の中に溢れてきました。余計な言葉を使わなくても、相手に気持ちが伝わるいい言葉だなと思っています。あとは、鏡で自分の顔を見るのも心がけていることですね。
―どうして鏡を見るのでしょうか?
森川さん:自分が今どんな顔をしているのかなと、時々確かめるためです。眉間にシワが寄っているようなしかめっ面でいたら、利用者さんも嫌な気持ちになりますよね。いつでも気分良く過ごしていただきたいから、利用者さんと関わる自分に表情があることを忘れないでいたいんです。気をつけないと、忙しさのあまりにいつの間にか表情が引きつっていることがありますから。
▲入浴介助後、髪の毛を乾かしている。利用者さんも気持ち良さそうだ。
―ほかにも心がけていることはあるのですか?
森川さん:存在意義が見出せずにいる人を癒すことです。
―具体的にいうと?
森川さん:入居者さんの中には、身寄りがない方もいらっしゃいます。ふいに寂しそうな表情をされることがあるのですが、そういったときに自分は必要な人間だと安堵感を持っていただけるように接します。癒すためにいちばん必要なのは、信頼関係を築くことだと思うんですね。あの人になら話しても大丈夫と、信じてもらえる存在にならなくてはなりません。だから日常会話でさり気なく出た話題でも、その方にとっては大事な話かもしれないということを常に頭に入れて接しています。
特にいつも一緒に生活している身近なご近所づきあいがある入居者さんたちのような環境の中では、すぐにウワサが広まってしまいますから、プライバシーを守ることや細やかな気配りは常に心がけています。
▲服を着ている利用者さんにメガネをかけようとする森川さんは母のようにも見えた。
その他には、真剣に向き合うことも大事です。このことを学んだのは、以前の施設にいたスタッフさんからでした。利用者さんの中には認知症の症状から少々暴力的になってしまう方がいらっしゃいます。ふつうでしたら驚いてしまうような迫力なのですが、そのときのスタッフさんは真剣な顔つきで利用者さんに真正面から向き合う姿勢を見せたんです。その利用者さんの感情が静まったのを見て、真剣さというのは伝わるんだなあと思いましたね。
介護の現場に関わっていると、いつも新しい発見や学びがあります。そんな環境にいるからこそ、私自身も教えられることばかりで、日々成長させていただけるのかもしれません。