■「不自由」に「快適」をもたらす工夫が面白いです。
▲梅津さんが持っているのは、市販の介護用ブラシ。腕が拘縮していても、腕を伸ばさずに髪の毛をブラッシングできるそう。
―訪問介護を行うときに心がけていることは?
梅津さん:どんな状況があっても常に考えていることは、いちばん効率的な方法です。生活が不自由な利用者さんの大変さを思ったら、いかに短時間で楽にしてさしあげられるだろうかと考えるのがやりがいを感じるところでもあります。
少しでも利用者さんが暮らしやすくなればと、利用者さんのお宅にあるものや簡単に携帯できるもので福祉用具や便利グッズを作って喜んでいただけることが楽しいのです。
―たとえば、どんな福祉用具やグッズを作っているのですか?
梅津さん:針金ハンガーは、わりと使いますね。たとえば利用者さんのお宅では、老朽化したお風呂の栓をつなぐ鎖が切れてしまって栓を取り外しにくい、という不具合が発生することがあります。利用者さんがご自分でお風呂の底にある栓を取り外そうとすると、体を曲げて無理な体勢をとらなくてはなりませんよね。そういうときに、針金ハンガーのフックにかける部分を栓の輪の部分に引っかけて、引っ張っていただくんです。すると無理にかがまなくても、楽に栓を抜くことができます。あとはヘルパーさんが干した洗濯物を利用者さんがご自分で取り込まれる際、竿の位置が高すぎることがあります。そんなとき利用者さんの高さに合わせて竿を引っかける支えを針金ハンガーで作るという工夫もできますね。そして、個人的に愛用しているのがレジ袋です。
▲梅津さんが常に持ち歩いているもののひとつで、人工呼吸を行う用具。これが必要となる現場には、まだ行き合ったことがないという。
―レジ袋は、どのように用いているのですか?
梅津さん:利用者さんのお宅の炊事場が水で溢れているような非常事態で、レジ袋を長手袋の代わりに用いて対応したことがあります。レジ袋は滑りやすいビニール素材なので、利用者さんの体位交換を行うときにも便利です。ヘルパーさんの中には、レジャーシートを体位交換に用いる方もいますよ。 バケツのないお宅で足浴や手浴を行う際にも、ビニール袋は活躍します。まず2枚重ねしたビニール袋に足を入れていただき、その周りにタオルで土手を作るんです。足を入れていただいた袋の中にお湯を注ぎ込んで持ち手部分を結んでしまえば、スチーム効果もある足浴ができちゃうんですね。 こういった小道具の用い方は、ヘルパーさん同士や利用者さん、そのご家族との会話の中で生み出され、新しい発見もあるんです。
―「リメイク料理」が特技という梅津さんですから、食べ物でも工夫されているのでしょうね。
梅津さん:利用者さん宅に行くと、材料が限られていることがわりと多いんです。以前に、ダシのないお宅がありました。でも、そこには、未使用の納豆のタレが大量に置いてあったんですね。それを利用して、おみお付けやおひたしを作ったことがあります。砂糖がないときにはハチミツを代用したりもします。他のヘルパーさんは全然調味料がないお宅で、魚の味噌漬けのお味噌を利用して、茄子の味噌炒めを作ったそうです。
限られた材料で何品作れるか、電子レンジでどんな料理を作れるかというような情報を交換し合って、各ヘルパーさんがさまざまに起こりうる状況に対処していけるのはいいことだと思っています。
>▲にぎやかな事業所内。「積極的に意見しやすい雰囲気がありますね」と梅津さん。
―なぜ梅津さんは、そこまで「工夫」を取り入れようとするのですか?
梅津さん:私たちが利用者さんを訪問させていただける時間は、ごくわずかです。限られた時間の中でできることといったら、決まってしまいますよね。どちらかといえば、利用者さんは私たちがいない時間を過ごされることのほうが多いわけですから、お一人暮らしであればなおさら、その利用者さんの思うままに行動していただくのが理想的です。そのために必要な工夫であれば、どんどん取り入れたほうがいいと思うんですね。それに利用者さんと関わっていると、どうしても手伝いたくなるのですけど、できることはご自身でやっていただいたほうが、自立支援につながると思うのです。
環境を整えていくことで利用者さんが安心して生活でき、こちらも安心して利用者さんの訪問を終えることができます。だから、こういうアイディアを提案していくことで、前向きで明るい介護をご提供させていただきたいですね。