■夢と理想―ひたむきに、前向きに・・・
▲壁に大きく貼られた経営理念。研修やミーティングの際には必ず全員で唱和するのだとか。
―こちらの事業所では人材育成にも力を注いでいるとか?
田中さん:はい。介護の仕事は人と人との繋がりの上にあるものなので、敬意を持って利用者と向き合うことが何よりも重要です。しかし、それだけでは不十分です。介護は自己判断でできることではありません。専門的なことは、やはり専門家から学ぶ必要があります。情報の収集や共有も技術的な訓練も、よりよい介護のためには欠かせませんしね。だから事務所スタッフにはできるだけ外部の研修に出席してもらうようにしています。そして、研修参加者が持ち帰ってきた新鮮な情報は、現場のスタッフにフィードバックするようにしています。希望があれば現場のヘルパーにも外部研修に参加してもらっています。
また、定期的に行う全体ミーティングは、スタッフ全員、参加必須としています。その際は訪問をお休みさせて頂いたり、訪問時間をずらして頂いたりしています。その結果、利用者の方々には少々ご不便やご迷惑をおかけしてしまうことになりますが、めまぐるしく変わる介護業界の情報の共有とスキルアップのための時間ですので、その旨ご理解いただいています。それ以外にも、外部から講師を呼んで勉強会を開くこともあります。
―事業所全体でスタッフのスキルアップを支えているんですね。
田中さん:そうですね。私自身、これまで色々なことを学んできましたし、利用者の方々からも多くのことを教えていただきました。もちろんまだまだ勉強し続けていくつもりですが、これまでに蓄えてきた知識や知恵、介護のヒントなどを今度は次の世代に伝えていきたい、繋いでいきたいなって思っているんです。だから、全体ミーティングや事業所内研修の時以外にも、事あるごとにスタッフを集めて話し合うようにしています。私は話に熱が入りすぎて、思わず感情が溢れてしまうときもありますけれどね(笑)。
▲排泄介助(おむつ交換)のコツをヘルパーに教える田中さん。熱心な指導が印象的。
そういった研修制度だけでなく、今後は、事業所として、介護職を続けながらでもちゃんと子育てができる環境を整備していきたいとも考えています。まだまだ先のことかもしれませんが、いずれは事業所内に託児所を作りたいですね。
自分自身が経験してきたことなのでよく分かりますが、子どもを育てながら仕事をするのは本当に大変です。子どもが熱を出せば保育園には預けられないし、仕事は休まなきゃいけないし、職場の人たちには嫌な顔をされるし・・・。でも、子どもに熱を出すなと言うわけにもいかない(笑)。働くお母さんは仕事やキャリアと育児、家庭というものに挟まれながら、常に葛藤しています。そんなお母さんたちの味方になりたいんですよ。熱がある子も体調不良の子も私たちがきっちり見ているから安心して仕事に行っておいで、研修に出席しておいでって、背中を押してあげたいんですよね。子育ても仕事も楽しんで欲しいんですよ。
育児・家庭・仕事・介護・・・。どれも断片的な事柄のようですが、全部どこかで繋がっています。だから、他は全て誰かに任せてしまって、どこか一箇所だけ上手くやろうとしても、そう簡単にはいかないんじゃないかって思うんですよ。大変なのは百も承知です。でも、子どもが必ず親を育ててくれます。傷ついた分だけ人の痛みが分かるようになるし、苦労の数だけ大きくなります。そんな色んな経験が、利用者との関係の中できっと生きてくる。だから、働くお母さんを応援したいんです。
でも、現在の日本にはそういうお母さんをしっかり受け止められるだけの環境がまだありません。それを作っていくこと、その必要性を伝えていくことがこれからの課題かなぁーなんて思います。
>▲「理想を持つことは大事」―そう語る情熱的な田中さん。
―最後に。田中さんが考える理想の職場、介護の現場とは?
田中さん:まずは身近なところで言うと、私たちの経営理念に賛同してくれる人たちが集まる職場にしていきたいですね。最初のうちは「何となく」でもいいんですよ、内部スタッフの気持ちが同じ方向を向いてさえいれば。そうすれば、現場のスタッフたちにも思いは伝わっていきます。そうやって、スタッフみんなの前向きな思いが増殖しながらどんどんリレーされたなら、私たちの思いは次第に事業所を飛び出して、周囲を感化していけるだけのチカラを持つかもしれません。それがもっと大きな輪になったなら、介護の世界をはじめ社会全体が変るんじゃないかなって思うんですよね。
私自身も事業所としても、まだまだ未熟な部分も多いし、今は夢や理想ばかりですけれどね。でも、理想がなきゃ前に進めません。当然のことですが、理想は追い求めないと現実にはなりません。逆を言えば、理想を追い求めれば、いつかそれが現実になるってことなんですよね。だから、諦めずひたむきに前向きに、理想を追い求めていきたいです。そして、次の世代にも、その次の世代にも情熱を持って伝えていければ嬉しいです。
■編集後記
▲有限会社ファーストケアまちやの皆さん
突き抜けるように澄んだ青い空とそこに浮かぶ夏色の雲―。体温と外気温が変らないほどの猛暑日に今回の取材は行われました。特技は「熱弁」と仰る田中さんのパワーと真夏の太陽とがリンクしたような実に「熱い」1日でした。
密着取材にご協力くださった田中さん、ならびに「ファーストケアまちや」の皆様。同行取材の際にお邪魔しましたご利用者様とそのご家族様に、この場を借りて御礼申し上げます。本当にありがとうございました。
「へるぱ!」運営委員会一同