■人として、プロとして「誠実・平等・丁寧」でありたい
▲「トマトはどうしますか?」―利用者さんと夕食の献立の相談をする田中さん。
―介護業界に入るキッカケは何だったのでしょうか?
田中さん:自分自身が「生きてて良かった」と思える仕事は何だろうと考えた時、介護の仕事が頭に浮かびました。人に感謝されて「ありがとう」とお礼を言われて、それでお給料が頂けるなんて、こんな素敵な仕事はそう多くはありませんからね。それで介護の仕事に就くことを決めました。
最初に介護の仕事に就いたのは平成元年のことです。ちょうど措置制度の頃でした。ヘルパーもまだ資格制度ではなく、2週間程度の研修を受けたら現場で働ける時代でしたね。その後、介護の業界から離れて別の仕事をしていた時期もありますが、やっぱり介護の仕事がしたいと思って戻ってきました。それから資格を取得しました。
―今の事業所との出会いは?
田中さん:友人が声をかけてくれたんです、私向きじゃないかって。その友人から現在の事業所の経営理念などを聞いているうちに気持ちに火が点いちゃって、「私の理想とする介護を実現させてもらえるのはココしかない!」と(笑)。それで、無理を言って事業所の社長に面接をしていただいたんですよ。友人にも、強引な面接のお願いに応えてくださった社長にも、本当に感謝しています。
―ところで、田中さんの「理想とする介護」とは一体どういうものですか?
田中さん:実は、事業所の経営理念そのもの、なんです。簡単にまとめてしまうと、「人として平等に、誠実に丁寧に利用者と関わっていくこと」です。例えば、少し強引な利用者宅に伺うと、人によって媚びへつらってしまって理不尽な要求にも応えてしまいがちです。また、それとは逆に、「何でもいいよ」と言われる利用者さんには、今度は母のような気持ちになって構いすぎてしまいます。このように、他と比べて過剰なサービスを提供することも、利用者の人間性によってサービスの姿勢が変ってしまうこともあってはならないと思うんですね。それは平等でもなければ誠実でもありません。もちろん、介護本来の目的ではありませんしね。
▲利用者さんのベッドへの移動をサポートする田中さん。
―確かにそうかもしれませんね。
田中さん:利用者それぞれの人生を尊重し、利用者の目線に立って介護支援を行うのが、私たちの務め。でも、介護者の中には、囲われた閉鎖的な空間の中で知らず知らずのうちに高圧的な態度に出たり、相手の気持ちを汲むことよりも自分の満足感のほうを優先させてしまったりしてしまう人もいます。
例えば、高齢者が何かをこぼしたりすると、「あらぁ~、こぼしちゃったのぉ~?」、「しょうがないわねぇ~」と言ってしまう方がいますよね。時々施設の研修なんかに行くとそういう光景を目の当たりにしますが、こんなに失礼なことはないと私は思うんですよ。
ずっと独身を通してキャリアを築き上げてきたご高齢の女性、常にビジネスの第一線で働いていらした男性などは特にそうですが、皆さん高いプライドをお持ちです。そういった方々にとって、自分よりもずっと若い人から言われる「しょうがないわね」の一言は、あまりにも屈辱的です。自分のプライドや歴史、人生を、土足で踏みにじられたような感覚に陥ってしまいます。ところが、面と向かって嫌だとか傷ついたとは言えない高齢者の中には、「お世話されているんだから・・・」と事を荒立てず諦めてしまう方もいます。そんな利用者の気持ちも理解していたいですよね。
>▲「気持ち悪いところはないですか?」―何度も声をかけて確認をする。
それまでできていたことが徐々にできなくなっていくもどかしさ、分かっていたはずのことが少しずつ分からなくなっていく辛さは、利用者ご本人が一番良く知っています。周囲が思っている以上に敏感に、日々の生活の中でひしひしと実感しているんです。私たちが経験したことのない苦悩と毎日戦っているんです。そういう背景を感じ取ること、理解することが大切ですね。いずれは自分自身も利用者になることを忘れちゃいけません。自分が利用者になった時にされたら嫌なことは、今、利用者にしない。相手の立場になって考えることをしていきたいですね。