■若い世代だからできることがある、そう信じています。
▲スタッフと打ち合わせをする篠原さん。表情は真剣そのもの。
―現在、こちらにはどのくらいのスタッフと利用者がいるのでしょうか?
篠原さん:2008年6月度の実績でお話すると、利用者が73名(自立支援法66名、介護保険1名、有償サービス6名)で、在籍ケアスタッフは79名(契約8名、パート71名)です。でも、最初は職員も2~3名、利用者も10名程度しかおらず、本当に細々と運営しているような感じでしたね。「できることは全てやる」をモットーに、利用者からの依頼には出来る限り応え続けてきた結果、徐々に規模が大きくなって現在に至ります。
―それにしても、若いスタッフが目立ちますよね。
篠原さん:男性スタッフの平均年齢は恐らく20代後半、女性スタッフの平均年齢はそれより少し高めといったところでしょうか。若いアルバイトスタッフが多いので、事業所の中はいつも明るく賑やかです。賛否両論なんでしょうが、大学のサークルみたいだとよく言われます。
―あえて若い方ばかりを採用しているのでしょうか?
篠原さん:いいえ、そういうわけではありません。たまたま体力があって、高いやる気や情熱を見せてくれたのが初心者の若者だったというだけです。そういう人たちのほうが良くも悪くも粘り強いので、この業界には向いていると思います。
―「粘り強い」とは?
篠原さん:「無理だ」とか「できない」とかって言いたくないんでしょうね、きっと。だから、難しい現場を任せても、利用者さんの期待にもこちらの期待にも一生懸命になって応えようとする。僕自身にとっても、その姿はとても刺激になります。そういう意地とか粘り強さって、とても大事だと思うんですよ。もちろん、自分の間違いを認められる素直さや謙虚さも大切ですけれどね。
それに価値観が定まっていない人だと、何事に対しても比較的柔軟に対応できます。「自分」が確立されてしまうと人の意見を素直に聞けなくなるし、価値観が定まってくると柔軟性がなくなって、どうしても人に「○○してあげちゃう」傾向が強くなります。でも、それじゃダメ。「自分の生活は障害当事者が決める」という基本方針自体を侵すことになってしまいます。その点、初心者や若者は何も知らないから気が利かない(笑)。だから「○○してあげちゃう」という発想が生まれにくいし、主役が自分の「○○してあげている」という感覚も生まれにくいんだと思います。
▲若いスタッフばかりの事業所内は常に賑やかだ。
―傍から見ると、介護業界も以前に比べて随分開けてきた感じがしますが・・・?
篠原さん:そうとも言えませんね。日本の世の中は、障害者に対してまだまだ構えています。車椅子を押していると良く分かるんですが、すれ違いざまに会話をぴたっと止められたりすることも少なくありません。それに、僕らヘルパーには話しかけてきても、車椅子の人の目線で話そうとはしない。こういう顕著な行動に出るのは、実は大人のほうが多いんですよね。
例えば、子どもは電動車椅子の動きをずーっと見ていることがあります。彼らの感性で見ると、恐らく電動車椅子独特の動きが面白いんでしょうね。だから、興味を持って車椅子とそれに乗っている人を見ています。でもその親は、大抵の場合、子どもの手を引っ張って「じろじろ見ちゃいけない」って言うんですよ。すると子どもは「何で?」、「あの人、足が動かないの?」と素直な疑問を周囲の大人にぶつけてきます。すると親は青ざめた顔で足早に通り過ぎようとするんです。
子どもが言ったことは無邪気だし悪気がない。単純で純粋だから、誰もそう傷ついたりしません。むしろ傷つくのは、見ちゃいけないものを見てしまったような、関わりを持つこと自体を避けているような大人たちの態度のほうです。凄く違和感を覚えますよ。
―なるほど、問題の根は深そうですね。
篠原さん:正直なことを言うと、僕は障害者や健常者、高齢者といったある種のカテゴリーや、カテゴライズすること自体にも違和感や拒否反応を覚えます。「障害者は・・・」、「高齢者は・・・」と自分たちの都合の良いように分けて考えている限り、結局何も変らないと思うんですよね。これって、ジェンダーに関する考え方とも共通する気がします。うーん、難しいなぁ。
▲篠原さんが中心となって発行している会報誌。利用者さんとヘルパーを繋ぐコミュニケーションツールのひとつなのだとか
―では、今後、どんな人材にこの業界に入ってきて欲しいですか?
篠原さん:渋谷とか原宿とかにいるような、先入観とか固定概念とか、常識とか、そういうものがまだ定まっていない普通の若者がいいですね。チャラチャラしていてもいいんですよ。興味を持って接してくれれば、それで十分。若い人たちが当たり前に車椅子を押すような、そんな世の中になっていくといいですよね。
介護って、そんなに特別なことじゃない。だから、飲食店やガソリンスタンドで働くのと何ら変らない感覚で飛び込んできて欲しいと思っています。高齢者とか障害者とか、そういうカテゴライズなんてものをどんどん無視した、若者の新しい価値観と感性に大いに期待しています。僕は、若者だからこそできる「介護」があると信じています。
■編集後記
▲社会福祉法人 幹福祉会 ケア府中の皆さん
天然目の温もりに囲まれた事業所内は車椅子での移動に配慮したバリアフリーで、通路はゆったり伸び伸びと確保されていました。また、事業所内は温かみのある白熱灯の灯りに包まれ、より一層アットホームな雰囲気がしました。誰もが程よく自然体―そんな印象を強く受けました。
「社会経験もないし、人生経験も少ない。介護の知識も乏しいし、ビジネスマナーなんてものもきちんと知らない。でも、何も知らないからできることも、若者だからできることも世の中にはあると思うんですよね」―取材中、篠原さんは何度もこう仰っていました。誠心誠意を尽くして自分たちなりの介護を世の中に示していきたいと話してくださった篠原さんの目は、本当にまっすぐで力強く、光り輝いて眩しかったと記憶しています。
密着取材にご協力くださった篠原さん、ならびに社会福祉法人 幹福祉会 ケア府中の皆様。同行取材の際にお邪魔しましたご利用者様とそのご家族様に、この場を借りて御礼申し上げます。本当にありがとうございました。
「へるぱ!」運営委員会一同