■高齢者の介護との違い
―同じ「介護(介助)」でも、高齢者の場合とは趣がだいぶ違うように感じますが・・・?
篠原さん:そうですね、違うと思います。高齢者の介護(介助)の場合は、保険の範囲でできることと出来ないことが明確に決まっていますよね。まず、障害者の場合はそこが少し違います。重度訪問介護の主なサービスというのは「日常生活支援=見守り」なので、かなり広義にわたります。だから高齢者の介護に比べると、明らかにバリエーションが豊富です。
▲篠原さんの訪問七つ道具の一部。手袋や消毒用のアルコールなど。
―実際の業務としてはどんなことを行うのでしょうか?
篠原さん: 掃除や洗濯、料理といった日常の家事のほか、状況によっては家族の食器も洗うし、庭の草むしりもします。また、障害者の介護(介助)の場合は余暇活動などの社会参加が認められていますので、一緒にカラオケに行ったり映画を見に行ったりすることもあります。散歩や美術館への付き添いも行いますし、コンサートにも一緒に行きます。結婚式に付き添うこともありますよ。
―行動は全て細かいスケジュールに基づいているのでしょうか?
篠原さん:大枠のスケジュールやサービス内容は契約時に決定しますが、それ以降の細かいスケジュールなどについてはそこまで厳密ではありませんよ。私たちだってそうですが、その日の体調や気分、天気などによってもやりたいことは変りますよね。それは利用者さんも同じです。だから、利用者さんの気分や要望に合わせて柔軟に対応できるように、行動に関する幅がある程度は設けられています。
僕たちは利用者さんができないことだけを、利用者さんの指示に従って代わりにするだけ。それ以上でもそれ以下でもない、というのが健常者スタッフの基本姿勢です。その大きな枠組みの中で本人が健常者だったらやるだろうことは全て請け負おうというのが、うちの事業所のスタンスです。
▲訪問先玄関にて。
―高齢者の介護の場合、現場で創意工夫が求められることも多いと聞きますが、障害者の場合はいかがですか?
篠原さん:不足しているところについては僕らが目となって利用者さんにサービスを提案することもありますが、最優先されるのは利用者さんの意思です。当然、スタッフの勝手な判断で創意工夫して何かをやってしまうことは固く禁じられています。どんなに些細なことであっても、必ず利用者ご本人の意見を伺ってから行動しますね。
―高齢者の介護と決定的に違うのは何だと思いますか?
篠原さん:介護時間の長さと内容(目的)でしょうか。高齢者の介護は「終末期ありきのサービス」になりますが、障害者の介護というのは「生きるためのサービス」、「自分が自分であるために必要なサービス」です。だから、サポート内容が全然違うと思います。
そして、高齢者介護の場合はターミナルケアに向かっているので先もある程度見えてきますが、障害者介護の場合は一旦契約が決まるとその後が長く、特に若い利用者さんとのお付き合いは10年以上になることもあります。それに、障害者の介護はスポット的なものだけではありません。24時間、365日、何かしらのサポートが必要であることが多いので、自然体であることが結構重要なんですよ。あまり頑張りすぎたり気を遣いすぎたりすると、お互いに疲れ果ててしまいますからね。僕は常に利用者さんの気持ちの触れ幅を確認しながら自分のスタンスを相対的に考え、テンションをコントロールしていくようにしています。