(6) 冬が厳しい地方ならではの介護

>▲施設内の壁には、パネルヒーターがびっしり。
―こちらでは冬になると利用者さんが一時的に施設を利用されるとか?
戸館さん:はい。冬場は24時間目が光っているところのほうが安心なので、お一人では冬を越せないと私たちが判断した場合にはショートステイのロングで入っていただくか、ご親類の方のところに移動していただいています。
―どのような方が施設の一時利用をなさるんですか?
戸館さん:多いのは独居の方です。ご家族が他県にお住まいだったり、頻繁に様子を見に行けなかったりする場合も、こちらの施設にいらっしゃいます。ご家族と同居されている場合は問題ないんですけれどね。とにかく、高齢者が雪深く寒さ厳しい東北の冬を一人で越えるのは大変です。灯油代も馬鹿になりませんし、それ以前に、灯油を誰が給油するのかって問題もあります。雪かきだって出来ませんし、もし出来たとしても非常に危険です。ヘルパーにそれを頼めるなら問題ありませんが、時期や天候によってはヘルパーが訪問できないこともありますからね。
―老々介護の場合はいかがですか?
戸館さん:老々介護の場合も難しいですね。介護者は、自分のことだけなら何とかなるんです。けれど、介護をしながら冬を越すということになったら大変です。冬でなくても老々介護は大変で、過労で介護者が先に亡くなってしまうケースもあるくらいですからね。特に介護者が男性の場合は倒れる確率が高いように思います。慣れない家事や洗濯、介護などを一手に引き受けて頑張っちゃうんでしょうね。それに夜中に何度も起こされて眠れないようですし。それで倒れないほうがおかしいですよ。その場合は介護を必要となさる利用者さんだけの施設への一時利用をお勧めしています。
▲施設では、入居者にも環境にも優しい太陽光発電システムを導入。
―一時入所はいつ頃から始まって、いつ頃に終わるんですか?
戸館さん:早い人だと11月から始まりますが、多いのは12月。お正月前くらいに入所され、家庭環境と気温とか雪解けにあわせて退所されます。このあたりは2月に最後の※ドカ雪が降るんですが、大体それが終わってからご自宅に戻られます。不思議なことですが、八戸に雪が降ると二戸に春が来るんです。八戸のほうは海なので雪が積もることはないんですが、そこに雪が降ることがこのあたりの春の知らせみたいになっているんです。〔※ドカ雪:腰のライン以上に積もる雪で、玄関も開けられず何も出来ない状態になる〕
▲冬になると、車はすべてスタットレスタイヤに履き替え。
―お話を聞くだけだと、なんとも風情がありますが。
戸館さん:そんな綺麗なもんじゃないですよ(笑)。東北に住む高齢者や私たちにとっては生活をかけたことですからね。冬になると私たちは山のほうの雲行きを見て、訪問先に行けるかどうかを判断したりしますが、あまりに雪が多いと、訪問に行く以前に自分の家を出ることができなくなってしまうんです。
―玄関が開かない、ということですか?
戸館さん:そうそう、開けられないんですよ。雪かきをして動けるようになるのに時間がかかりますからね。出勤できたとしてもかなり遅れますし、途中で通行止めにあって身動きが取れなくなることもあります。たいていの場合は除雪車が走るので何とかなるんですが、無理な時には利用者さんのお宅に連絡を入れ、サービスに迎えないことをお伝えします。こういう場合は、ご同居のご家族も身動きがとれずご自宅にいらっしゃることが多いので、ある意味安心だったりもするんですよね。
それでも中には独居で頑張る方もいらっしゃいます。やっぱり、ご自宅にいたいんでしょうね。そうすると、ヘルパーは雪かきをして玄関を入るんです。雪が積もらない地域では考えられないことでしょう?
―介護にとって東北の冬は厳しいですね。
戸館さん:でも、雪深いからなのか、助け合わなくては冬を越すのが難しい地方だからなのか、東北の人たちは結束力が強いと思います。横や縦の繋がりを大切にしているところは好きです。私はここで生まれ育ってきましたしね。とにかく、誰かの知り合い、どこかでつながっている人達に、私はいつも動かされているように思います。そして、そのことに本当に感謝しています。
■編集後記
今回の取材は12月上旬に行いました。取材前日の東京はすがすがしい晴天で、雪の気配すら感じませんでしたが、新幹線に揺られトンネルを抜けると、そこには真っ白に染められた田畑が。九州育ちの私が初めて見る東北の冬景色やそこに暮す人々の生活は、静けさと暖かさと、その両方を持ち合わせたとても素敵なものでした。

取材当日はまたしても雨模様でしたが、雨の止んだほんのつかの間に、同行した車の窓から美しい虹が見えました。その虹が、ささやかながらも温かく、厳しいけれども確かに介護の世界を見守っているように感じられました。
美しい虹に負けない輝きと笑顔を放っていた戸館さん、本当にありがとうございました。取材にご協力いただきました社会福祉法人いつつ星会の皆様、ならびに取材をご快諾くださいました利用者様、本当に、本当にありがとうございました。この場を借りて御礼申し上げます。
そして、「へるぱ!」をご利用されている皆様、これまで取材でお伺いしました事業所の皆様。来年もまた、どうぞ宜しくお願いいたします。