(2) 介護保険、みんなで改善できたら良いですね。

▲利用者さんの体調確認。急激な体重の減少に心配そうな稲葉さん。
―稲葉さんはサービス提供責任者以外にも、別の役割をお持ちだとお聞きしたのですが。
稲葉さん:事業所の衛生管理者をやらせていただいています。私たちの事業所は、全部で50人以上のスタッフがいるので、職場の環境や衛生面、ヘルパーさんたちの健康を管理する人が1人必要なんです。
―沢山いるヘルパーさんの訪問先はどのように割り振りしているのでしょう?
稲葉さん:各利用者さんに合った担当付けを心がけていますね。まず、初めての訪問先には私たちサービス提供責任者がヘルパーとして入らせて頂きます。そして、利用者さんの状態や性格などを把握した上でヘルパーの割り振りを考えています。
▲この日、10年来の炊飯器が壊れてしまったという。購入方法について話し合う。
―大変そうですね。
稲葉さん:大変だと思えば、何でも大変ですから(笑)。けれど、それよりも大変というか、ちょっと考えてしまうのが介護保険制度ですね。ご家族と同居されている利用者さんだと受けられないサービスがあったり、介護度によって利用者さんが自費を出す必要があったりする場合など、介護保険制度と利用者さんとの間でときどき難題にぶつかることがありますよ。
実は最近、病院の診察室内にヘルパーが付き添うというケースが発生しました。今回の場合だと診察室内は自費扱いになるんですが、これを利用者さんに納得してもらうための説明にはすごく悩みました。決められた規則は変えられませんから、利用者さんに何度も説明をして納得してもらうしかありません。けれど、利用者さん側はお話すればするほど困惑してしまって。
利用者さんによって介護度もお財布事情もそれぞれ違います。経済的にゆとりがある方やご家族の支援が得られる方ならば、介護度に関わらず自費サービスを上手に利用したり家族の力を借りたりして生活することもできます。しかし、それが難しい方もいらっしゃいます。介護度の高い低いに関わらず、完全独居で生活保護に頼っている利用者さんの中には、お金がないからと自費を出せず諦めたり、我慢したりしてしまわれる方も少なくありません。私たちが手出しできるところではないので、それを目の当たりにすると切なくなりますね。
▲利用者さんは、いつも玄関の外まで見送りをしてくれるのとのこと。
―やはり保険制度ができる前と今では、介護業界の様子もだいぶ違うのでしょうか?
稲葉さん:全然違います。今は介護度や時間でサービス内容がはっきりと分かれていますから。介護保険についての揉め事が起こって役所と交渉しても、なかなか話が進まないし、八方塞がりになってしまうこともあります。正直なところ、様々な制限がつきまとう現状の介護保険にやるせなさを覚える介護職員は私だけではないと思います。できることなら、毎日様子を見に行きたいし、それが無理ならせめて電話だけでもかけて声を聞きたい。誰にも等しく幸せな老後を送れる介護保険制度になって欲しい。それが現場に共通する思いなのかなって感じますね。だからこそ、介護保険と利用者さんの両方と上手に付き合える方法をいつも模索しています。
―今後の介護保険制度に期待することは?
稲葉さん:まずは介護保険制度に関わる多くの人たちに介護の現場へ足を運んでもらって、さまざまな現状を見てもらいたいです。そして、もっと利用者さんの幸せや、介護業界で働く人たちのことを考えた仕組みになって欲しいと願います。
思えば、介護保険制度が始まってまだ10年も経っていないんですよね。これから少しずつでも良い制度になるよう、みんなで力を合わせて改良していくことが理想なんだろうなと思います。