平成18年度の制度改正で導入された介護予防サービス。最近になって、複数件の問合わせをいただきました。周囲の事業所を見ると、契約内容に盛り込んでいない事業所が多く見られます。おそらく大半の事業所が「介護予防訪問介護の介護報酬が月あたり定額払い」という理由によりキャンセル料を取扱っていないのではないでしょうか?
そこで、「介護予防訪問介護におけるキャンセル料の取扱い」に関わる法令通知内容を書き出してみました。皆さんの事業所で、ご利用者さんやその家族の方々に十分説明ができる内容になっているか再チェックしてみましょう。僭越ではありますが、私も小さい事業所を経営させてもらう身。法令通知等の解釈だけでなく、私の事業所が置かれている経営環境も含めた総合的意見も参考までに述べております。
【介護保険関係法令通知等上でおさえておく必要のある点】
(1) 報酬が月あたりの定額払いであること
(2) 次の介護報酬関係通知によりサービスの振替が比較的安易であること
「指定介護予防サービスに要する費用の額の算定に関する基準の制定に伴う実施上の留意事項について(平成18年3月17日老計発第0317001号・老振発第0317001号・老老発第0317001号)」の第二の2介護予防訪問介護費の(2)介護予防訪問介護の支給区分 より
サービス提供の時間や回数の程度については、利用者の状態の変化、目標の達成度等を踏まえ、必要に応じて変更されるべきものであって、当初の介護予防訪問介護計画における設定に必ずしも拘束されるべきものではなく、柔軟な対応を行うべきであること。
「平成18年4月改定関係Q&A(Vol.2)」老健局振興課発 より
「Q」 介護予防訪問介護等定額制サービスのサービス提供日時の調整業務などは、
誰が行うことになるのか。
「A」 介護予防サービスにおける介護予防訪問介護等の定額報酬であるサービスの場合は、必ずしも、介護予防支援事業者が行う必要もなく、サービス提供事業者が利用者との話し合いで行うこととして差し支えない。
【労働保険関係法令通知上でおさえておく必要のある点】
(3) 勤務時間帯の変更や休日振替による労働日の変更により、勤務させる業務を確保、 提供した場合は、労働者への休業手当の支払いは必要でないこと
「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について(基発第0827001号)の(3)休業手当より
利用者からの利用申し込みの撤回、利用時間帯の変更の要請に対し、使用者が当該労働者に対し他の利用者宅で勤務させる等代替業務の提供を行った場合、あるいは就業規則の規定に基づく始業・終業時刻の繰上げ・繰下げによる勤務時間帯の変更や休日の振替による労働日の変更を行い他の利用者宅で勤務させる等必要な業務の提供を行った場合には、休業手当の支払いは必要ない。
【検証】
(A) (2)(3)により、キャンセルされたサービスは日時を変更し(当然、サービス計画における目標や方針、支援要素などを踏まえて)、サービス提供事業者主体で、当該ヘルパーと利用者の都合を確認し変更できる。そのため、ヘルパーへのキャンセルに伴う休業手当(賃金支払い)は発生しなくて済む可能性が大きいと思われる。
(B) 例え、当該ヘルパーの予定と利用者の変更希望日時が合わず、ヘルパーに休業手当を支払ったとしても、もともと(1)のように報酬が定額制なので、通常の月よりキャンセルになった数日分だけ(例えば、利用者の心身状況の変化により必要とする)サービス提供回数が増えたことと同じことになる。
<検証結果>以上(A)(B)から、事業者が実質的な損害を被ることはほとんど想定しがたい。
<事業者が実質的な損害を被るケースの一例>
実質的な損害を被るケースをあえて挙げるなら、サービス提供予定月(勤務調整済)に利用者が予定を無視、非常識な理由でキャンセルの繰り返しが行われ、1度もサービス実績がなく介護報酬請求に至らなかった場合に起こりえます。その場合は、報酬収入は当然発生せず、ヘルパーの勤務振替も不可、賃金支払いだけが発生することになります。
『キャンセル料を取扱う場合は…』
前記述のような実質的損害が発生するケースに限定して、重要事項説明書に具体的な取扱い内容を明記することになります。当然ながら、契約時においって利用者に十分な説明を行い、同意を得ておくことが前提となります。
【行政の対応状況】
厚生労働省をはじめ、ほとんどの都道府県で具体的に「介護予防訪問介護のキャンセル料について取扱ってはダメ」との通知は発していません(HPで検索確認)。ただし、確認できた都道府県・保険者では、「取扱うこと」について、「そのような事例は想定しにくい」と消極的な意見が強いように思われます。
【私的な見解】
運営基準通知などから考えて、介護予防訪問介護は、サービス利用において非常に柔軟性をもっており「ヘルパー都合の振替勤務が行いやすいこと」や「介護報酬が定額制であること」を考慮に入れると、仮に振替勤務ができず休業手当が発生しても、実質的な損害を被るとは考えにくく、前記述に挙げた1例のような「実質的な損害を生じるケース」は限定的なケースで、ほとんどないと思っています。
特に、「キャンセル料の取扱い」が売上目的(あくまで損害の補てん目的であるべき)であるなら、実地検査では指摘事項になりやすいと考えられます。
また、「実質的な損害を生じるケース」は私が知る限りの事業所で(5~6社/月あたり予防利用者実績数15~20人くらいの規模)、予防サービススタート5年経つ今でも、ほとんど発生していません。このことを踏まえると、私個人としては、キャンセル料を取扱うことで、利用者や他事業者の居宅介護支援事業所などから事業所としてのマイナスイメージを持たれることの方が、事業経営面から見て、よっぽど大きな損失と考えています。
今回は「キャンセル料の取扱い」について取り上げてみましたが、介護サービスを展開する中では他にも様々な問題や疑問点に遭遇します。介護保険制度としてのルールを踏まえたうえで、私たちはどうすべきか、関わっている職種や職務・職位により多少は異なりますが、介護に従事する者として原点に帰って考えを導き出していただけたら…と思います。