『あいめいと』が目指すケアとは?
生活環境も含めたそれぞれに合う計画をたてます
玄関にはご利用者さんが靴を脱ぐときに便利な腰掛けベンチがある。
―ご利用者さんにあわせた個別対応ができるようになったと先ほどおっしゃっていましたが、例えば具体的にどんなケアがしてあげられるようになったのでしょう?
ご利用者さんのなかに、50歳ぐらいの若年性アルツハイマーの女性がいらっしゃるんですが、自分の名前だけは今後どんな場面でも書けたほうがいいじゃないですか。そこで、デイではノートに名前を書く練習をしていました。でもある時を境に、一気に書けなくなってしまって…。彼女の様子を見て、これを続けるのは本人の負担になると気づいてからはすぐにケア内容を変更したんです。ヘルパーさんと一緒にデイサービススタッフとして彼女に来てもらうようにしたんです。そして、帰る前には仕事内容とノートにサイン(名前)をしてもらうようにしたところ、今では字もしっかり書けるようになってきたんですね。さらに、デイに来た当初には見られなかった笑顔もよく見かけるようになりました。そこまでご利用者さんと向き合えるのは、小規模ならではのメリットですよね。
ご利用者さんの歩調にあわせてゆっくりとフォローするスタッフたち。
―ご利用者さんに対して、とても前向きに取り組まれているのがこのエピソードからも伝わってきます。ここまで個別に対応してもらえてご利用者さんは幸せですね。
そう思ってもらえているといいんですけれど(笑)。そうですね…。ご利用者さんのことをきちんとケアできることで、絆も深まりご家族の負担が軽減されるなど、もちろんいい面もあります。でもその一方で、個人の感情をコントロールするのが難しいという部分もありますよ。
ご利用者さんが来たら挨拶を交わすと同時に健康状態などをチェック。
―というと、それはどういうことですか?
例えば、現在、要介護1でデイを利用されている方がいます。その人が暮らす家庭環境を考えた時、もう少しデイに来られる回数を増やしてあげたい…私なりにそう考えました。要介護2の申請をされては?とご家族に提案したのですが、少ししか回数が上がらないのに利用料金の単価が上がって金銭的負担になるから…と受け入れられませんでした。でも、ご利用者さんのことを考えたら…という気持ちが頭をもたげてしまう。そういう風に個別対応できればできるほど、ご利用者さんに入りこんでしまう度合いが強くなります。どこかでブレーキを引かないといけないんですが、そこの見極めが本当に難しいですね。
ご利用者さんが手先の練習でつくるカゴバッグの原型。
―確かに、ご利用者さんのことを知れば知るほど「本当はこういう支援をしてあげたいのに…」と思われる部分も多々あることでしょう。そうした感情をどう抑えるというか、コントロールされているのですか?
よく私はご利用者さんのことに深入りしそうになると、自分にこう問いかけます。「その人の人生を全て背負うことができるのか?」と。もちろん答えはNOですよね。だからこそ、どこかで一線を引いて、ここまでは出来るけれどここからは出来ない…と折り合いをつけていかなければならない。心苦しい作業だけれど、それが結局はご利用者さん、ご家族のためにもなるんだと思います。
ご利用者さんが実際に編んでつくったバッグは既製品並みの出来栄え。
―折り合いをつけるラインって、具体的にはどう決めているのでしょう?
最初の段階で出来る限りご利用者さんに関する情報収集をします。家族構成、家庭環境、金銭具合から、ご家族、ヘルパーさん、ケアマネさんから直接聞いたご利用者さんの状況など、全てを頭に入れたうえでその人に合った計画をたてます。目指す目標を最初に明確にすることで、それ以上は立ち入らない…と自分の感情にブレーキをかける役目も果たしてくれているような気がします。
木漏れ日が差し込む窓の横にはスタッフのタイムカードが設置されている。
―なるほど。介護という仕事の枠内で最大限ご利用者さんのことを考えるというのは実はすごい難しいことなんですね。
そうですね。介護の世界で大きな変化を求めることはできません。目に見えないものを少しずつ積み重ねていかなければいけない、とても根気のいる仕事です。でも逆に、ご利用者さん1人ずつ目標達成するための計画がしっかりあれば、スタッフ一丸となってそこに向かって突き進めますよね。そして、それを乗り越えたらまた次、と常に前向きに考えることができるのは、とても大切なことです。