■大切にしているのは、初対面での“お声かけ”。
▲上里町には田畑が多い。野菜やお米を作っている家庭がわりと多いのだとか。
―廣田さんがサービス提供責任者として大切になさっていることは?
廣田さん:定められた時間の中で、いかに利用者さんに満足いただけるサービスを提供できるかを目指しています。ですので、作業の効率の良さや、ヘルパーさんとの連携を大切にしています。
―まず「作業の効率」のポイントを教えてください。
廣田さん:生活援助でお料理をするときは、どうしても材料を煮たり焼いたりという時間をかけないと美味しいお食事を提供できませんよね。特に利用者さんの場合は、噛まなくても飲み込めるくらいに柔らかいお食事を必要となさっています。そんなときに私が用いているのが電子レンジなんです。
▲毎日お弁当という廣田さんのランチメニュー。この日は、豆入りご飯に、胡麻和えと肉じゃが。
例えば「肉じゃが」を作るにしても、事前にジャガイモやニンジンを電子レンジで柔らかくしてしまうことで、一品5分と、ずいぶん煮込む時間を短縮できてしまいます。
あとは冷凍保存というのも、活用しています。食べ物を大切にされる利用者さんが多いので、長く日持ちさせるために、何でも小分けにして冷凍保存してしまいます。あらかじめ切って冷凍しておくだけで、手間いらずなお料理ができるんですね。「ほうれん草のお浸し」などは、茹でて冷凍しておいたほうが解凍してすぐに食べられますし、毎回のお食事がうどんという利用者さんの場合は、茹でて冷ましたうどんを一食分ずつ小分けにしています。
また冷凍したものに日付を書いて古い順にお料理していくのも、なるべくおいしく食べていただける工夫の一つです。
―そういった活用術は事業所のスタッフの皆さんでお勉強なさっているんですか?
廣田さん:はい。多くは事業所に皆さんが来られた際に、情報交換をしながら新しいお料理方法などを勉強しています。こちらで学んだメニューの一つに、高齢者に人気の「油みそ」と呼ばれるお料理があります。使用する具材はナスが多いのですが、冷蔵庫にある野菜であれば何でも用いることができます。刻んだ野菜を油で炒めて、おみそで味付けをするんです。利用者さんに食べていただくものが何もないという時には、そこにある野菜を集めて「油みそ」を作ると喜んでいただけますね。
▲事務所の中には、手早く作れる料理本や介護技法などを学ぶ本が。ヘルパーさんも、これを見て勉強しているという。
―そして「ヘルパーさんとの連携」は?
廣田さん:利用者さんの行動に合わせて、具体的な生活介助の内容を決めています。例えば、ある目の不自由な利用者さんは、医師の往診日に合わせて前日に枕カバーやシーツを交換します。利用者さんの希望でシーツをクリーニングに出したり、買い物がある場合など、利用者さんに関するすべての訪問内容は事務所に連絡していただき、その内容を次回の訪問ヘルパーに通達します。
次に訪問するヘルパーさんは、事前に出していたシーツ類を受け取るため訪問前にクリーニング店へ寄ってから、買い物があるときには買い物を済ませてから、利用者さん宅へ向かっていただきます。
利用者さんに依頼された事項をヘルパーが預かり、事業所に報告、そして次回に繋げるというバトンの受け渡しのような作業がスムーズに行われることで、利用者さんに快適な毎日を送っていただけたらと思っております。
■ちょっとのことも、利用者さんにとっては大きな喜び。
▲利用者さんから頂いたという手作りの品々で、事業所内は華やかだ。
―廣田さんが利用者さんと関わっていて喜びを感じるのは、どんなときですか?
廣田さん:利用者さんやご家族の方が「良かった、助かりました」と喜んでくださったとき、また、ようやく心を開いて打ち解けてくださったときでしょうか。利用者さんから「生きる希望が持てた」という言葉が聞かれると感無量ですね。
―その利用者さんとの触れ合いに関するエピソードを教えてください。
廣田さん:まだ63歳という若さで半身不随になられた女性の利用者さんは、何とかして自分の足でトイレに行けるようになりたいというのが目標でした。理学療法士さんに訓練していただき、家でもヘルパーさんと一緒に少しずつトレーニングを重ねていました。
そうして、立ち上がってトイレに行くまでは利用者さんが一人で頑張り、パンツを下げるところまでは2人でやるという日々を繰り返したら、今ではパンツをあげるまで自分でできるようになったんです。
リハビリも訪問だけで行われる方や、デイサービスなどを利用しいろんな場所で機能訓練している方と様々ですので、希望を聞きながらどこまで私たちが応援できるかケアマネさんとも連携していくという形ですね。
あと、利用者さんに多いのが、便が出ないという悩みを抱えていらっしゃる方です。些細な体調の変化に思われるかもしれませんが、利用者さんにとって排便は大きな問題なんです。ですから、便が出ないだけで気持ちが落ち込ん出しまわれる方も中にはいらっしゃいます。元気だなと思うと、何日ぶりに便が出た!と、とても喜んでいらしたり。健康であると些細に考えてしまうことも、本当はとても大事なんだと、利用者さんから教えられている気がします。
▲もうじき退院される101歳の利用者さんの面会。手が思うように動かないため、代わり口腔清掃。利用者さんはゴムボールでリハビリを行う。
―時には、状態が思わしくないと落ち込まれる方もいらっしゃいますか?
廣田さん:やはり誰にでも波はありますから、いつも前向きに頑張られる方ばかりというわけにはいきません。やる気をなくされてしまわれる利用者さんの場合には、何かしら希望を見つけて元気を回復していただけるように努めています。
このように利用者さんとはお互いに元気を交換して、毎日を前向きに生活できるようにしているのですが、逆に私のほうがパワーをいただいてばかりという利用者さんもいらっしゃいます。
▲利用者さんと記念撮影に、ついつい笑みがこぼれる廣田さん。「100歳を超えても自分の歯でモノが食べられるのは、素晴らしいと思うよ」(利用者さん)
―その方とは?
廣田さん:町の最長寿という101歳の利用者さんで、いまだにお一人暮らしをなさっているんです。現在は少し体調を崩されて入院しておられるんですが、最後は自宅で……というのがご本人の希望で、息子さんや主治医の先生など、皆さんの理解がある中で生活していらっしゃいます。私たちは朝・昼・晩と1日に3回訪問させていただいているのですが、何かがあるたびに「ありがと」と言ってくださって。毎日関わらせていただいているからなのでしょうか、「ヘルパーさんは家族以上だから」といって、私たちに心を許してくださるのは、とてもありがたいですね。“高齢者の一人暮らし”というと、どうしても寂しい印象がつきまといがちですが、こちらの利用者さんは毎日の暮らしを楽しんでいらっしゃるんですよね。ご高齢になられても、ここまでできるんだというのを教えてくださった方という気がしています。今後も第2第3のこちらのような利用者さんが現れてくれたら嬉しいですね。