■答えの見えない「認知症」、いま利用者さんに増えています。
▲この日の研修会のテーマも認知症。資料はスタッフの手作りだ。
―研修会では勉強をする以外に、ヘルパーさん達の個別相談なども行っているんですよね?
鈴木さん:はい。日頃から担当の利用者さんについては、スタッフ同士で話し合いや相談をしながらケアを進めているんですね。しかし、じっくりと話す場を改めて設けることでケア状況が進展したり、担当ヘルパーの意識の統一が行われるので、研修会の際には必ず個別相談の時間を設けています。
―最近多いと感じる相談の内容には、どんなものがありますか?
鈴木さん:現場で認知症の利用者さんが増えているので、認知症にまつわる相談内容が多いですね。認知症の利用者さんによっては、訪問した際に遂行するべきケアや生活介助などを行うことさえ困難な場面に出くわすことがあります。
例えば言葉を忘れてしまう認知症の利用者さんだと、入浴介助でお風呂に入れたとしても湯船から出ることさえ容易ではありません。「立ってみてください」と声をおかけしても、「立つって何?」となってしまわれます。ですから私が実際に行う、膝を伸ばして体を上に上げるといった、一連の動作を直接見ていただいて、利用者さんに真似をしていただくようにします。
あとは、いつの間にか家の外に出てしまわれる認知症の利用者さんもいらっしゃいます。その場合には常に目を離せませんので、食事の準備をしていても、野菜をひと切りするたびに様子を窺うといった緊張感が必要になってきます。
今は軽度の認知症だとしても、1年後には全く違った状況に変化していることが多いので、その度合いに応じてケアに当たる必要があります。
▲参加者全員が集まった中で始まった研修会。資料に目をやるスタッフの表情は真剣そのもの。
―素朴な疑問なのですが、利用者さんの中には認知症だと察して不安を抱く方もいらっしゃいますか?
鈴木さん:ええ。自分がおかしいという状態が分かるので、異変に気づいたら不安にもなるようです。以前に、ヘルパーの訪問日を忘れないようにと、カレンダーに訪問予定を書き込んでおくことを習慣にしていた利用者さんがいらっしゃいました。しかし認知症の症状が進行すると、書いたことも忘れてしまうんですね。そうして自分の変化に落ち込んでいるうちに症状がますます悪化してしまい、ヘルパーの存在も忘れてしまわれます。
―認知症で落ち込まれる方には、どのように対処をしているのでしょう?
鈴木さん:忘れたことに落ち込んでいると、「皆さん一緒ですよ。私だって忘れますもの」と明るく振舞ったり、カレンダーにメモするなど努力の様子が見られれば、「書くのは、とてもいいことなんですよー」と前向きに話しかけます。
認知症の場合は治療や改善が非常に難しいので、残念ながら正しい答えというのはありません。だけど、みんなで話し合うことで何かしらのアイディアは生まれます。私たちにできることは、その小さな一歩がより良いケアへ導いてくれると思って頑張り続けることです。
▲初めての買い物同行が無事に終了した帰り道、利用者さんとの談話で笑みがこぼれる。
―では最後に、鈴木さんにとって介護とは?
鈴木さん:「お互い様」です。利用者さんのおむつ交換をさせていただく際、「汚れたところまでありがとうね」と言われるんですけど、将来的には私も利用者さんと同じ立場になるんですよね。だから、「お互い様ですよ」と答えています。できる人がやればいいんですから。
■編集後記
▲サポート・コスモスのスタッフのみなさん(辻社長は一番右)。
色鮮やかなコスモスの花が咲き乱れる、日差しの暖かな9月17日、東京都文京区にある「有限会社アドワンス サポート・コスモス」にお邪魔してきました。
出迎えてくれたのは、オーナーの辻鈴子社長。茶道歴40年とあって、取材でお邪魔した記者をも、お抹茶で丁寧に出迎えてくださいました。そうして1日の密着で出していただいたお茶は、実に5杯。そのことからも、「おもてなしの心」をいかに大切にされているかが、伝わってきます。
取材を受けてくださった鈴木さんは、訪問される利用者さんの心をしっかりキャッチし、自身が大事にする“お声かけ”で利用者さんとのテンポを合わせておりました。その様子を見ると、お声かけを大事になさっているという言葉を、直接感じられる気がしました。
▲記者にもお抹茶とようかんが。おもてなしの心を体験させていただきました。
今回の取材にご協力いただいた、「有限会社アドワンス サポート・コスモス」のスタッフの皆さま及び利用者さまには、心からお礼を申し上げます。ありがとうございました。
「へるぱ!」運営委員会一同