■「平常心」を保ち、接する「距離感」を大切にしたいですね。
▲「どうしていつも、こんなにフワフワしてあったかいんだろねぇ」。そういって平井さんの手に掴まる利用者さん。
―介護業務のなかで平井さんが得意とすることはありますか?
平井さん:お年寄りとの関わり方でしょうか。私の祖父母は生まれる前に他界していましたから、お年寄りとの触れ合いがない子ども時代を過ごしてきたんですよね。しかし前の職場も年配の方が多かったので、関わり方が分かっていたというのもあるかもしれません。介護職に就く前から、年上の方とはすんなり打ちとけられるほうだったと思います。
―年配の方とうまく接するコツは?
平井さん:目上の方と接するときは、最初の印象で見られることが多いので、とくに初体面が大切だと思っています。あとは私なりの方法ですが、オドオドしないことでしょうか。ヘンに謙遜もしないですし。つまり自然体で接するということになるんですけど、さりげない気づかいを忘れてはならないのも大切なことかもしれません。それから分からないことがあったら無理に話を合わせようとせず、素直にたずねる姿勢というのも、いつも大事にしていますね。
▲利用者さんは「もう一人で食べるのが嫌になっちゃったよ」といって、平井さんと食事をしたがっていた。
―平井さんが現場で心がけていることはありますか?
平井さん:ひとつは「平常心」。緊急を要する現場は慌てやすく、平常心を保つのが困難な場面もあります。しかし、介護のプロである私たちが動揺してしまったら、利用者さんやご家族は、もっと不安な気持ちになるんですよ。ですから、そういう時こそ平静を心がけるようにしていますね。
そして、もうひとつが「笑顔」です。ただ表面だけを笑顔でつくろっていても、内面で嫌だと思っていると、利用者さんにもその気持ちが伝わってしまいます。ですから、どんな状況があるにせよ、利用者さんのいいところや前向きな思考に目を向けるようにするんです。
人間ですから、合わない人がいて当然。でも根気よく、「私はあなたが好きなのよ」と笑顔で接すると、利用者さんも少しずつ心を開いてくださいます。何かのふとしたキッカケや関わり方ひとつで、どんな方との関係も改善できると私は信じています。
▲事業所の壁にはマザー・テレサの写真が飾られている。
―訪問介護は人間と人間の関わりですから、コミュニケーションは欠かせませんよね。
平井さん:そうですね。利用者さんたちは、ヘルパーさんの訪問を本当に楽しみにしてくださっているんです。それは食事や掃除の介助以上に、ヘルパーさんとコミュニケーションが取れるからだと思うんですね。体が思うように動かないと、外に出る回数も減ってしまい、人と接する機会がわずかしかありません。だから私は介助にあたりながら、いろんな話をして利用者さんと過ごすようにしています。わざわざ自費でコミュニケーションの時間を設けている方もいらっしゃるほどなんですよ。
―利用者さんにとっては、ヘルパーさんとの触れ合いが本当に大切なんですね。
平井さん:そう思っていただけると、とてもやりがいを感じます。利用者さんとは楽しい話のときもあれば、家族間の悩みごとなど辛い話題になることもありますよ。どんな話をする場合でも、話の内容に共感することは大事ですけど、それと同じくらい近づきすぎない利用者さんとの距離感というのも、いつも気にかけて接するようにしていますね。
立場上、利用者さんだけに肩入れするわけにもいきませんから、身近に接しつつ距離を置いて遠くから見る目も持つようにしているんです。
―利用者さんとの関係で、これからも大切にしていきたいことはありますか?
平井さん:“人と人とのつながり”という部分です。利用者さん一人ひとりとの出会いを大切にすることはもちろん、事業所の内外を問わないヘルパーさん同士のつながり、区役所や病院、商店街など町全体との関わりも大事にして、社会全体で介護を豊かなものしていけたらいいなと思っています。
■編集後記
▲「つくしの会」のスタッフのみなさん。
いつも以上に忙しい時期だったにも関わらず、こころよく取材を受けてくださった「つくしの会」の平井さん。移動中でもひっきりなしに携帯電話が鳴り、スタッフさんとのやり取りがやむことはありませんでした。
この日は6件のお宅に訪問されていましたが、多いときでは1日に8件ものお宅を訪問したことがあるそうです。
こんなに忙しくてプライベートは大丈夫なのかと尋ねると、
「一緒に暮らしている彼が支えてくれているおかげで、こうして毎日元気に仕事ができるんだと思います。夜が遅くなりそうなときには、『ご飯どうするの? 炊いておこうか?』と聞いてくれるとか、たくさんの面で支えられていますね」
そう答えてくださいました。
>▲寮で飼っているという猫ちゃん。
パートナーの存在があって、職場での平井さんの輝きがよりいっそう増している。
その様子が、しみじみと伝わってくるお話でした。
今回の取材にご協力いただいた、「つくしの会」および利用者さまには、心からお礼を申し上げます。ありがとうございました。
「へるぱ!」運営委員会一同