~スヴェンボー市の福祉政策~
まず私たちが訪問したのはスヴェンボー市庁舎。スヴェンボー市はデンマーク南部に位置し、首都コペンハーゲンから165キロ、人口は約43,000人あまりで高齢化が進んでいる町です。そこで私たちは市の担当者から福祉政策に関する講義を受けました。
スヴェンボー市は市民の意見を聞き、福祉に反映させたことによって2000年に「ベスト・シティ・オブ・ザ・イヤー」に選ばれています。年間予算約60億円のうち、55%が社会福祉に、またその38%が高齢者福祉に使われ、福祉は充実していて、現在の政策・取り組みの柱は「保健と予防」なのだそうです。また、高齢者ケアは在宅がとりわけ重視され、福祉政策はIT化された携帯用端末によって、サービス内容も毎日細かく決められ、データを一元管理しています。このため全ての情報を把握することができ、無駄を省いています。また、チームケアにより24時間サービスの体制も早くから整っているそうです。
スヴェンボー市では介護教育もシステム化されているとのことで、午後からは介護士養成学校でお話を伺いました。その話の中で、「うーん、なるほど」と感嘆したのは、ヘルパー養成の学校で教鞭をとっている教員から聞かされた話でした。学生になるための最初の関門は面接で、ここで大原則としていることは『人が好きか?』ということなのだそうです。面接官のおめがねにかなわないときは学生として受け入れず、その人に適した職業を紹介するというのです。その上、他職業の紹介に必要な手続きや書類作りなども手伝うというから驚きです。
日本の場合はとにかく入学させて、それから育てるということになりがちです。しかし、実際に育てられる学生はほんの一握りに過ぎません。だからなのでしょうか。介護福祉士として世に送り出すには不安になる学生も少なくないと聞きます。日本の介護関連の教員たちはこのことを危惧しています。また、日本では介護教育もこれから制度も含めて大きく変わろうとしています。介護福祉士を養成する大学や専門学校も定員割れの状況が続いています。「介護はキツい」というイメージからか、介護業界は離職率が高いとも言われています。しかし、全てが同じではありません。実は高いところと低いところが二極化していて、離職率がとても低い事業所や施設も沢山あるのです。今後、介護を目指す若者たちへ介護の魅力を伝えるためにも、積極的なアプローチがこれまで以上に必要となるのではないでしょうか。
この日一日を通して強く感じたのは、国と市が福祉政策について前向きに取り組んでいるということ。「これでいい」ということなく、課題を1つずつ解決するための方策を常に探り続けていると感じました。福祉関連は完全にIT化されていて実に効率的。しかも、ここ数年は市の予算も節約できているというのです。また透明性も高く、「市の予算やその使い道は全て市民に明らかにされている」とのお話でした。さすが、「わが国は、自己決定の国である」と言うだけのことはあるなぁと感心しました。