より良く生きるということは「心とからだ」の相互作用だと思っています。前回書かせていただいた内容からも想像できるように、人間は事故にあったから亡くなる、自分の気力だけではどうにもならない病気で亡くなるだけではありません。「心とからだ」は一体のものであり、支援する側の私たちも常にその意識が必要です。
ホームヘルパーさんが訪問介護計画にあるサービス内容を時間内でこなそうとしても、「そんなことしなくていいから、話を聞いてくれないかな」と利用者さんに言われたことはありませんか?人間は歳を重ね、自らがこれまでの生活のように自由に行動できる状態でなくなったとき、寂しさは増すものです。人の生きる力は、人と人との関係性をもって、そこに喜びや希望など何かしらその人の気持ちに響くものがあって、そこから生きる力が蓄えられるのではないかと思うのです。
ホームヘルパーの養成研修で「コミュニケーション技術」について学びますよね。そこで大切なことは言葉をかけることだけではなく、その人の様子を見なさい、語るときは非言語のコミュニケーションも十分に活用しなさいと講師らが何度も繰り返し言うのもそのためです。
既に亡くなられたA氏の事例ですが、食事が進まず介護職員が悩んでいました。主介護者の奥様も医師に「自分のからだも大切にすることが必要だから、高カロリーのジュースを食事の代わりにしなさい」と勧められ、食事はおいしいジュースに決まっていました。A氏も飲む食事を好んでいましたが、体力の低下、気力の低下は初めてお会いした時から感じていました。
縁あって、当時の認知症デイサービスに見えるようになりましたが、A氏は食事の時間になると口をつぐんでしまいます。奥様は「長男として大切に育てられた夫は会話も少なく、人との付き合いも苦手で、私でないとだめな人なんです」とA氏のことを語っていました。食事についても以前から小食で、180センチ近い身長ですが40kgくらいの体重でした。医師は奥様の健康を気にかけジュースを食事に当てるよう勧めていましたが、A氏にはしっかりとした歯がありました。見守りと言葉かけがあれば、飲み込みも十分可能です。そこで、私たちはA氏にジュース以外の食事も取っていただけるように対策をとりました。
そう、A氏の気持ちに働きかけるのです。A氏が主人公であることを意識できるように働きかけるのです。職員はA氏の隣に座り、様子を見ながら「Aさん、ひとくち食べましょうか」と働きかけます。「うん」といって箸をもち、ひとくち口に運びますが、その後が続きません。そこで非言語のスキンシップが始まります。A氏の背中に手を置いて、軽く響く程度にリズムを取りながらA氏の好きな歌を小さな声で歌うのです。それがA氏の心に響き、彼はまた箸をもって食べ始めます。半量でも召し上がっていただければ十分。後の不足分はジュースで補ったものでした。けれど、A氏の表情が明らかに違うのです。この日のことを、A氏は奥様に「今日は楽しかったよ」と伝えていました。A氏が亡くなった後、奥様がそんなことがあったと教えてくださいました。
人との関係性作りにはとても時間がかかるものです。介護事業をしていて日々感じることです。だからこそ、学びの姿勢は常に必要です。3月の24日から一週間の日程でデンマークに出かけます。デンマークはとても良い教育をしている国です。教育現場、そして、在宅・施設、行政の取り組みについても、しっかりと学んでいきたいと思っています。
そこで皆様にご連絡です。私とともにデンマークへ行き、現地で介護研修を受けたい方はいらっしゃいませんか?詳しくは「へるぱ!」運営委員会日記上に記載されていますので、ご興味のある方はどうぞご連絡くださいね。